ユリシーズ【小説】Ⅵ梗概十~十二挿話【左】重要度〇位 

 
 

第十三挿話 ナウシカア

サンディマウント海岸で、三人の若い娘が子供を連れて遊んでいる。前半はこの中の一人ガーティ・マクダウェルの、婦人雑誌ないしノヴェレッタの文体を模した語りによって書かれており、彼女は恋愛についての夢想をするうちに、遠くから中年の男が自分を見ていることに気がつく。これが仲間とともにディグナム婦人を訪ねてきた後のブルームで、彼女は花火が上がるどさくさにスカートの裾を捲り上げてブルームを挑発し、彼はそれを見ながら自慰をする。彼女が去っていくとき、ブルームは彼女が足に障害があることに気がつき、ここからブルームの独白に切り替わる。ブルームはその場にへたりこんだまましばらく休み、彼女や妻、娘、ディグナム婦人のことなどに思いを馳せ、産科にマイナ・ピュアフォイを見舞いに行くことに決める。

場面=岩場、時刻=午後8時、器官=、学芸=絵画、色彩=、象徴=、技術=勃起・弛緩、神話的対応=ガーティがナウシカアに対応。

第十四挿話 太陽神の牛

ブルームは、産婦人科病院にピュアフォイを見舞い、そこで医師ディクソンに誘われて、医学生の宴会に加わる。そこにはスティーブンがおり、後にバック・マリガンも加わり性や妊娠について歓談する。ピュアフォイが無事に男児を出産すると、スティーブンの一声で一同はバーク酒場へ移動したので、ブルームも几帳面について行く。この挿話は、英語文体史を概括するパスティーシュの集積で成り立っており、古代の呪いから始まって、ラテン語散文、古英語の韻文、マロリー欽定訳聖書文体、バニヤンデフォースターンウォルポールギボンディケンズカーライルというふうに次々と文体が変わってゆき、最後にスラングまみれの話し言葉となって終わる。

場面=病院、時刻=午後10時、器官=子宮、学芸=医術、象徴=、技術=胎生的発展、神話的対応=産婦人科病院が太陽神の島トリナキエに、病院長ホーンが太陽神ヘリオスに、生殖力あるいは豊穣がその牛に対応。(オデュッセイアでは、部下たちが禁忌を破って島の牛を食べてしまい、神の怒りによって全滅する。オデュッセウス1人が残される。)

第十五挿話 キルケ

スティーブンと仲間のリンチは、娼家街に繰り出す。ブルームも彼らの後を追い、ベラ・コーエンの娼家で彼らを見つける。この間、ブルームとスティーブンも頻繁に幻覚を見る。スティーブンは、死んだ母親の幻覚に怯え、ステッキでシャンデリアを壊して逃げ、路上でイギリス王に対する軽口を聞き咎めたイギリス兵に殴り倒される。ブルームがスティーブンを介抱しようとすると、彼は死んだ息子ルーディの幻覚を見る。この挿話は、全編がト書き付きの戯曲形式で書かれており、プロットは頻繁に登場人物の見る幻覚によって中断される。

場面=娼家、時刻=深夜12時、器官=運動器官、学芸=魔術、象徴=娼婦、技術=幻覚、神話的対応=娼家の女主人ベラがキルケに対応する。