ユリシーズ【小説】Ⅰ特徴構成【内】重要度〇位

 

文体

ジョイスは『ユリシーズ』の18の章をそれぞれ「同業者には未知で未発見の十八の違った観点と同じ数の文体」で書くことを試みている[16]。前半の文体を特徴付けているのは「内的独白」ないし「意識の流れ」と呼ばれる手法であり[17]、主要人物の意識に去来する想念を切れ目なく直接的に映し出してゆく。この手法に関しては、ジョイスは交流のあったフランスの作家エドゥアール・デュジャルダン英語版)の『月桂樹は切られた』から影響を受けたことを認めている[18]

「意識の流れ」は一人の人物に焦点を合わせる手法であるが、『ユリシーズ』の後半では語りの視点が複数化・非個人化するとともに作者固有の文体というべきものが消失し、古今のさまざまな文章のパスティーシュを含む実験的手法がとって代わる[19][20]。特にその実験が顕著なのが第14挿話であり、ここでは古代から現代にいたる、30以上の英語文の文体見本となっている。そして、最後の章では、主人公ブルームの妻モリーの滔々とした独白、つまり他者の声によって終わる[21]。こうした後半の文体について、ディヴィッド・ヘルマンは、前半の語りの主体である「語り手」に対して、「編成者」という名称を使用している[22]

また、『ユリシーズ』の文章は、膨大な量の駄洒落や引用、謎かけや暗示、百科事典的な記述と羅列といったものを含んでいる[23]。生前、ジョイスは、「非常に多くの謎を詰め込んだので、教授たちは何世紀も渡り私の意図をめぐって議論することになるだろう」とも語ったという[24]。『ユリシーズ』は、英語原文にしておよそ26万5千語の長さを持っており、その中で固有名詞や複数形、動詞の変化形なども含め3万30種もの語が使用されている[25]