ユリシーズ【小説】Ⅰ概略目次【序】重要度〇位

 

 

特徴

構成

『ユリシーズ』の物語は18の章(挿話)に分かれており、『リトル・レビュー』連載時には各挿話に『オデュッセイア』との対応を示唆する章題が付けられていた(刊本では除かれている)。ジョイスは友人や批評家のために、『ユリシーズ』と『オデュッセイア』との構造的な対応を示す計画表(スキーマ)を作成しており、これには『オデュセイア』との対応関係だけでなく、各挿話がそれぞれ担っている象徴、学芸の分野、基調とする色彩、対応する人体の器官といったものが図示されている。「計画表」にはいくつかの異なったバージョンがあるが、差異は副次的なもので大きな食い違いはない[12](計画表自体は#梗概に併記している)。

また、ジョイスは、後述する『ユリシーズ』に対する猥褻裁判の担当弁護士でジョイスのパトロンでもあったジョン・クィンへの書簡(1920年)のなかで、『ユリシーズ』の構成が『オデュッセイア』の伝統的な三部分割に対応していることを示している[12]。すなわち、作家志望の青年スティーブン・ディーダラスがその中心となる最初の三挿話は第一部「テレマキア」を構成し、父オデュッセウスの不在に悩むテレマコスの苦悩を描く『オデュッセイア』前半部に対応する。本作の中心人物である中年の広告取りレオポルド・ブルームが登場しダブリン市内のあちこちを動き回る第四挿話から第十五挿話までが第二部「オデュッセイア」(のちに「ユリシーズの放浪」の名称のほうが受け入れられた[13])を構成し、オデュッセウスの冒険を描く『オデュッセイア』の基幹部に対応する。そして、ブルームがスティーブンを連れて妻モリーの元に戻って来る最後の三挿話が第三部「ノストス」(帰郷)を構成し、オデュッセウスの帰還を扱う『オデュッセイア』後半部に対応している。

小説のプロットを神話と対応させるこの方法は、『ダブリン市民』に所収の「死者たち」から徐々に試みられていたものである[14]T・S・エリオットは、これを「神話的方法」と呼び、『ユリシーズ』出版に際してこの手法の開発を科学上の新発見になぞらえて賞賛した[15]