宇宙人が地球に来たらわかるはず。光速に近いスピードで航行する宇宙船でも現在の技術を使えば見ることができる(米研究)
2015年04月05日 ι コメント(45) ι 知る ι サイエンス&テクノロジー ι #
星と星の間を自由に移動できる世界は、今のところSFの中にしか存在しないが、光速のスピードなら可能であると推測されている。それどころか、近い将来登場する技術と資金をつぎ込めば実現できる可能性すらある。
これは人類に課せられた大きなチャレンジだ。だが、米カリフォルニア州エル・セグンドにある軍需企業レイセオンのウルヴィ・ユルトサーバー氏とスティーブン・ウィルキンソン氏が指摘するのは、ここで見落とされている別の側面だ。
相対論的速度で移動するあらゆる物体は、宇宙マイクロ波背景放射の光子と相互に作用するということである。相互作用は抵抗を生み出し、宇宙船の移動速度に一定の限界をもたらす。これにより、相対論的宇宙航行のユニークな痕跡をも残すはずであり、我々の銀河の近くを突き進む乗り物があれば、現代の技術でも見ることができるという。
宇宙マイクロ波背景放射はビッグバンの残響だ。宇宙創造の最初の瞬間に放出された光であり、宇宙が拡大するとともに広がっていった。そのため、その始まりは高エネルギーを有した短い波長の放射線であったが、今ではマイクロ波となっている。
これは宇宙のいたるところに満ちている。宇宙にはcm3当たり400個以上の宇宙マイクロ波光子が存在するため、宇宙空間を横切る宇宙船は毎秒数兆個の光子と衝突することになる。そうした衝突は微視的なレベルで、光子が高エネルギーで核に命中しているものと考えることができる。そして、このときのエネルギーが十分に大きければ、電子-陽電子対を作り出すということは粒子物理学者の間ではよく知られた事実だ。
ユルトサーバー氏とウィルキンソン氏の両名は、光速に近いスピードで移動する宇宙船の静止座標系には、これらの光子が高エネルギーのガンマ線として現れると指摘する。このガンマ線が電子と陽電子の静止質量よりも大きいエネルギーを有していれば、光子との衝突は電子-陽電子対を作り出すことになる。
さらに、このプロセスでは膨大なエネルギーが散逸するという。電子-陽電子対が生み出されるごとに、1.6×10(-13)ジュールが散逸する。「仮に有効横断面積が100m2であるとすれば、そのときの散逸効果は毎秒2百万ジュールに達することになります」と両氏は説明する。
宇宙船の静止座標系では、この散逸は時間の遅れのためにさらに大きくなる。高速移動時に数秒延びると、エネルギー散逸が膨れ上がり、毎秒1014ジュールにも上る。
宇宙船のエンジンが克服するにはかなりの抵抗であり、そのため一定の速度を保つことになる。両氏の見解では、これが宇宙船の速度を電子-陽電子対が生み出される閾値以下に抑えるべき理由だ。そうすることで、抵抗のレベルを毎秒数ジュールと無視できるレベルまで減らすことができる。この閾値は、宇宙船が光速の1-3.3×10-(17)の速度で出現するものだ。
相対論的宇宙船の移動は、別の効果も引き起こすだろう。宇宙マイクロ波背景放射を散らして、独特の痕跡を残すのだ。「重粒子の宇宙船が相対論的速度で移動する際、宇宙マイクロ波背景放射を散乱させ、現代の技術でも地球上から検出可能な周波数シフトを起こします」とユルトサーバー氏とウィルキンソン氏。
両氏はこの痕跡の特徴を計算する予定だ。彼らによれば、この散乱はスペクトルの赤外線領域にテラヘルツ単位の放射線を発生させ、このシグナルが背景に応じて移動するはずだという。シグナルの特徴は、温度が急激に低下する一方で、強度は急激に上昇するというもので、遠方のクエーサーに固定された参照系に関連する発生源の動きを伴う。
要するに、相対論的宇宙船が星々の間をさっと横切ったとすれば、その痕跡が現世代の天文台で観測されるということだ。
この非常に面白い結果は、相対論的宇宙移動の分析を新たなレベルへと引き上げてくれる。他の研究者は、相対論的宇宙船のエンジンが発生させる光学発光を利用して、これを観測する可能性について調査を進めてきた。しかし、ユルトサーバー氏とウィルキンソン氏の成果はその先を行くものだ。
もちろん、ここには多くの仮定がなされており、そもそも相対論的宇宙移動が可能なのかといった問題もある。仮に高度に発達した文明がこのワープ的な移動を行っているのなら、光子との相互作用は些細な問題かもしれない。というのも、物体との衝突のほうが遥かに甚大な被害をもたらすだろうからだ。
両氏はこの文脈に数字を当てはめてみた。その結果、光速に近いスピードで移動する宇宙船が10-(14)グラムの宇宙塵の1欠片にぶつかったときの衝撃は、10,000メガジュールに匹敵するエネルギーとなることが判った。
星々の間は比較的綺麗な状態とはいえ、それでも宇宙船は前もって航路の清掃をしておく必要があるだろう。
via:.technologyreview・原文翻訳:hiroching