自分が異世界に転移するなら 作者:昼熊
贄の島編
10/139
主人公【敵】の力
人を一人殺しただけでレベルが一気に10も上がるんだよ。それに、何と……レベルアップで得たスキルポイントと別に、スキルポイントを1000手に入れたんだ!」
嘘だろ……。少年の話が本当だとすれば、この子は最低でもレベル11。いや、11は確実に超えている。
それにスキルポイントが1000も増えるということは、殺した相手のスキルポイントが自分へ移るということか。
「いい表情するね! 僕、お兄さんの事気に入っちゃったよ!」
「それは……ありがとうよ」
「うんうん。でね、レベルが上がってスキルポイントも手に入れた僕は『奪取』の前提条件を満たしたのさ。あ、それだけじゃ信じられないよね。はいどうぞ」
満面の笑みを浮かべた少年が投げてきた生徒手帳を掴みとった。
少年を視界から外すのは危険を伴うと判断し、生徒手帳を相手の顔の横まで持ち上げて開いた。
生徒手帳の顔写真と少年の顔は一致している。名前は、雷豪寺 春矢。らいごうじ しゅんや 変わった苗字をしている。
その下に記載してあるレベルは――29となっていた。
「レベル29だと……」
無意識の内に声が漏れていた。澄ました顔写真の隣に並ぶ春矢の顔が、心底嬉しそうに破顔した。
「ねえねえ、凄いでしょ!」
「凄いというか、凄すぎるな」
心底感心したように頷いて見せた。といっても、殆ど本音なのだが。
「わかっているね、お兄さんは!」
無邪気に喜ぶ姿は年相応……より、幼く見えるが、この少年がしてきたことを考えると、油断をする気はない。
下へと視線を移すとステータス欄がある。
今まで生徒手帳を見てきて分かったことなのだが、たぶん、ステータスの平均値は10だとおもう。それより多ければ、平均より優れているということなのだろう。
そんな彼――雷豪寺のステータスは全て15となっていて、更にレベル3まで上げられている。つまり、全ステータスが 15×3=45 となる。身体能力の全てが俺を上回っている。筋力だけは数値が近いが。
「ふふーん」
ちらっと、彼に目をやると自慢げに胸を張り、期待に満ちた目がこちらに注がれている。春矢は待っているのだろうな称賛の言葉を。
「ステータスも凄まじい。俺なんて比べるのも恥ずかしくなるレベルだな……」
驚嘆のあまり思わず呟いたように見せる。相手のご期待に添えたようで、自慢げに顔が輝いている。
この下を覗くのが怖いのだが、そこに打開策が見つかるかも知れないと自分に言い聞かせ、注視する。
スキル欄には13種類ものスキルが存在していた。
まず目に飛び込んできたのは『奪取』5という文字だ。やはりスキルレベルを上げているか。5レベルということは、奪えるスキル数は――15。
脅威と言うレベルを超えている。他にもスキルはまだ存在している。
『窃盗』3『説明』3『共通語』3『状態異常耐性』3『魔法耐性』3『環境適応』3『時空魔法』3『魔力容量』3『隠蔽』3『風属性魔法』3『魔力』3『魔力変換』3
『窃盗』と『説明』は元から所有していたスキルで間違いない。それ以外は全て『奪取』で奪ったスキルか。
『状態異常耐性』『魔法耐性』『環境適応』『風属性魔法』『魔力』『魔力変換』は初めて見るスキルだ。殺されたオッサンと女生徒、もしくは別の人が取得していたスキルだろうな。
『時空魔法』『魔力容量』は足元に転がっている彼の死体から奪ったモノで、間違いないと思う。
『隠蔽』は昨日見つけた二人目の死体も所有していたが、たぶんそこから奪ったモノではない。あの人は『消費軽減』や他にも使えそうなスキルを持っていた。
スキルの空きも充分な今、それを取得しない理由が無い。同じ人から二つ以上のスキルが奪えるのは、前の人のスキルを二つ持っていることが証明になる。
「スキルレベル3に揃えているのは何か意味が?」
「そこ、聞いてくれるんだ。いいところに目がいくね。僕って几帳面なところがあって、数字が揃ってないと気持ち悪いんだ」
なら、何故『奪取』の5レベルに合わせなかったのか。スキルポイントも四桁近く余っているというのに。
「じゃあ、何で5に合わせなかったとか思ったでしょ。僕もそうしたかったんだけど、スキルってレベル5から能力が格段に向上するけど、レベル4あたりから消費ポイントが半端ないんだよ。だから、暫くはポイント貯めて一気に全部4、そして5に上げるんだ!」
そうなのか。俺は『同調』5を所有しているが、そんなに消費ポイントが必要なかったな。あれか、能力が微妙だと判断されて、そんなにポイント要らないのか。
あと、もう一つ聞いておかなければならない事がある。
「一つ疑問がある。自分よりレベルの低い相手には奪取スキルは使えないという、記載があったと記憶しているが」
「そんなところまで覚えていたんだ。うん、そうだよ。でもね、それって説明2までの情報だよね。説明3まで上げると、注意書きが増えるんだよ。ただし、転移者が相手の場合はレベル差があっても可能となる。ってね」
最悪だな。『説明』を上げることにより情報量が増えるとは思っていたが、大事な部分はまだ隠してあったということか。
「あ、そうだ。僕の生徒手帳見たんだから、お兄さんの生徒手帳も見せてよ」
「あ……ああ、構わないよ」
俺はアイテムボックスから生徒手帳を一枚抜き取ると、中身を確認して春矢へ軽く投げ渡した。
春矢の実力なら俺と春矢を隔てている糸なんか、問答無用で切り裂くことも可能な筈。なのに、一定の距離を保ったまま会話を続けているのは、一抹の不安があるからだろう。
自分を脅かす能力を所持していないか。そして、確かめる理由はもう一つ――自分が欲しいスキルを所有していないか。
『魔法耐性』がレベル3まであれば、少々の魔法なら耐えきられるだろう。それに、ステータスの高さもある。
『状態異常耐性』も、自分に悪影響を与える精神異常や肉体異常へ耐性。ただでさえ高いレベルに加えステータス『精神力』の高さ。精神力は魔法や精神攻撃への抵抗力。毒や精神操作や混乱といったスキルも、生半可な実力では通用しない。
スキル欄にある『隠蔽』は、その名の通り隠す力。俺の『捜索』に引っかからなかったのも、背後を取られたのに気付かなかったのも、このスキルの力だろう。
「へえ、お兄さんって、岩村 正也って言うんだ。って、お兄さん。ステータス欄が破れているんだけど」
「そこは勘弁してくれ。春矢くんのステータスを見せつけられた後に、晒す勇気はないからね。咄嗟に破ってしまったよ」
「まあいっか。レベル3だもんね。そりゃ、僕と比べたら可哀想だ」
強者の驕りか。あからさまに怪しい言い分を気にしないのか。まあ、ステータスで彼を上回っている可能性はないのを理解している余裕だろうな。
それに、春矢が気にしているのはスキルだからか。
「あははは、変なスキルいっぱい持っているね。あ、僕と一緒の隠蔽があるよ! 水使いなんて取ったんだ。ぶっ、お兄さん引っ掛かったの!? 鑑定持っているなんて、あははははは」