小説家になるための戦略ノート     作者:坂崎文明

<< 前の話 次の話 >>  

47/267

江戸川乱歩賞の謎/人気作家のサバイバル戦略

作家ランキング/ランキング&口コミ
http://kuchiran.jp/enta/sakka.html


 人気作家の宮部みゆき(オール讀物推理小説新人賞を受賞し、短編「我らが隣人の犯罪」でデビュー)、東野圭吾(『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー)、伊坂幸太郎(『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー)、有川浩(『塩の街 wish on my precious』で第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞しデビュー)、乙一(『夏と花火と私の死体』で第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞(集英社)を受賞しデビュー)、村上春樹(『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。)、林真理子(エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』がでデビュー)、大沢在昌(『感傷の街角』で第1回小説推理新人賞を受賞してデビュー)、海堂尊(第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞しデビュー)などなど、どうもミステリー分野の作家が多いなあという印象を受けます。


 江戸川乱歩賞というのもミステリーですが、結構、有名作家を輩出しています。僕の知ってる人だけですが。 
-------------------------------------------------------------
江戸川乱歩賞

第11回(1965年) - 西村京太郎 『天使の傷痕』
第15回(1969年) - 森村誠一 『高層の死角』
第24回(1978年) - 栗本薫 『ぼくらの時代』
第26回(1980年) - 井沢元彦 『猿丸幻視行』
第28回(1982年) - 岡嶋二人 『焦茶色のパステル』、中津文彦 『黄金流砂』
第29回(1983年) - 高橋克彦 『写楽殺人事件』
第31回(1985年) - 東野圭吾 『放課後』
第37回(1991年) - 鳴海章 『ナイトダンサー』、真保裕一 『連鎖』
第39回(1993年) - 桐野夏生 『顔に降りかかる雨』
第44回(1998年) - 池井戸潤 『果つる底なき』、福井晴敏 『Twelve Y. O.』


 受賞者は第二作発表の場も含め、講談社の強いバックアップによって育成されていくという慣行がある。そのため、新人賞としてものちのち活躍していく作家の率が非常に高い。岡嶋二人は受賞後、編集者に「直木賞を受けて消えた作家はいても、乱歩賞を受けて消えた作家はいない」(消えた、の定義にもよるが、実際はゼロではない)と言われたという。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E5%B7%9D%E4%B9%B1%E6%AD%A9%E8%B3%9E
---------------------------------------------------------------

小説家というしごと ~あるミステリー作家の実態~ その1

 何故こんなに新人賞の数が増えてしまったのか。
 出版不況でマーケットは年々小さくなる一方です。一点あたりの売り上げ高が減少する中、前年比を保つためにはとにかく点数を出さなければいけない。そんな時、鳴かず飛ばずの中堅作家より新人の第1作の方が売りやすいので、賞の数は増えるわ、持ち込みの間口は緩くなるわ、とにかくどんどん出しちゃいましょうというのが現在の実情です。昔に比べてハードルは低くなり、ある意味プロの小説家になりやすい時代と云えるでしょう。

 ところが。先日ホラーサスペンス大賞の授賞式で、若い新人からこんな言葉が飛び出しました。
「新人賞の受賞は、ガンの告知に似ていると云われます。なぜかというと、五年生存率が問題」
 洒落にならないそういう把握を、出たばかりの新人が既にしている。確かに「出るは易いが、続けるのは難しい」今はそういう状況です。もっとも昔から、デビューしたら「2作目が勝負だよ」2作目出したら「3作目こそが勝負だよ」と云われ、そうやって作家は育ってきたのですが。

(中略)

 小説家は職業ではありますが、お金儲けとか本を売るとか、そのために書くものでは基本的にないんじゃないか、というのが僕の考えです。「業」と云いますか、「性」と云いますか、書かずにはおれないから書くのであって。
 生活が厳しいとか、デビューしても残れないとか、云われてもそれでも書かずにおれない人が小説家になり、そういう人が結局残れるんだと思います。

5. 兼業作家のススメ

 現実問題として人間は食べないと生きていけないので、「とりあえずは兼業作家でやっていく」これが一番いいと思います。小説に頼らずに生活できるよう、生活の基盤は別の職で作っておいて、志のままにいい作品を書く。
http://www.geocities.jp/y_ayatsuji/step2/rep/shigoto11-a.html
---------------------------------------------------------------


 長々と引用しましたが、今は作家デビューしやすくて(するのも大変ですが)生き残るのが難しい時代のようです。

 そんな中で書かずにおれない人が生き残り、最初は兼業作家からはじめてというのがいいのでしょうね。

 社会人として生き残るための仕事、専門知識などは作家となるには有効であり、法律事務所に務めていた宮部みゆき、医師の海堂尊、コピーライター→エッセイがベストセラーになった林真理子などの実例もあります。

-------------------------------------------------------------
ライトノベル作家の生存率 〜電撃文庫の場合〜
http://blog.livedoor.jp/gurgur717/archives/51104448.html

歴史作家伊東潤のブログ【仍如件よってくだんのごとし2】 
生存率2%の荒野へ

 わかりやすい例で言えば、北方謙三、大沢在昌らは、純文学で鍛えた文体を駆使し、ハードボイルドに移行して成功を手にしました。北方氏はさらに南北朝もの歴史小説や中国ものまで手を広げ、いまだ固定読者層の増殖を続けています。
 むろん、R・Wのように、純文で百万部を飛ばすメガヒットを飛ばしながら、エンタメに移行したとたん売れなくなったという失敗例もあります(彼女は若い上に美人なので必ず復活すると思いますが)。
 東野圭吾は大人向け本格ミステリーで出発し、いったん最も多くの購買層がいる青春ミステリーにシフトし、加速度がついたところで大人向けに戻りました。
 宮部みゆきは、固定読者層が先細る前に積極的に他ジャンルに進出し、他ジャンルの読者の刈り取りに成功しました。
 成功の鍵は、いかに多くの固定読者層をキープできるかにあります。
 運や偶然もあるのかもしれませんが、こうした戦略があってこそ、一流作家足りえるのですね。
 作家には、ただ良作を繰り出すだけでは生き残れない厳しい荒野が待っているのです。
http://jito54.blog13.fc2.com/blog-entry-28.html

綾辻行人トークショー「小説家というしごと」
http://www.eonet.ne.jp/~ao-neko/repo/0404ayatsuji.htm

大沢在昌 推理小説家の仕事
http://www.osawa-office.co.jp/fun/10.html
------------------------------------------------------------

 大賞受賞作はそこそこ生き残ってるみたいです。
 ですが、受賞後、そのまま書けなくなった作家も多いですね。

 5~10年生存率を考えて戦略を練る必要があるようです。
 デビュー時に10本ぐらい小説の書きためして、ネタは100本ぐらい考えておくような感じでしょうか。

 なかなかデビューできないというのも、あながち不利ではなく、その分ネタが蓄積されるので悪くないと思います。

 ミステリー的な作品を書ける、作品に謎を秘めておくというのもかなり重要な要素かも。江戸川乱歩賞の作家生存率が高いのはそういう理由だと思ってます。講談社のバックアップと出版社としての歴史と地力もあるんでしょうね。


 人気作家のサバイバル戦略としては、新人賞に通りやすいミステリー?でデビューし、他ジャンルに進出というのがパターンのように思います。

栗本薫 ミステリー→JUNE、SF、伝奇、時代、ファンタジー小説。
池井戸潤(銀行員退職後コンサルタントになり、ビジネス書執筆)
ミステリー→『半沢直樹』『下町ロケット』のような経済小説。
井沢元彦 ミステリー→日本の歴史の謎解きなどエッセイ的著作も多い。
高橋克彦 ミステリー→伝奇、歴史小説など。

 夢枕獏のデビュー作は筒井康隆が主宰する同人誌『ネオ・ヌル』載ったタイポグラフィック作品『カエルの死』で、それが『奇想天外』8月号に転載されデビューした。
http://muratyan.cocolog-nifty.com/book/2007/11/post-8cd2.html

 その後、伝奇、格闘技、歴史、SF小説など幅広く書いています。これは異色のデビュー作ですね。

 ミステリー&謎解きが書ける、そういう要素を作品に入れるのは必須ですね。

 次回は『ハチワンダイバー』の実例から語るマイナージャンル小説のサバイバル戦略です。

 

<< 前の話 次の話 >> 目次 

 

 

小説家になろう 勝手にランキング