その理由についてはよくわかりませんが、しかし、なぜか近頃、アメリカの古い西部劇『ワーロック』の、劇的な盛り上がりとは無縁な、極めて地味なワンシーンが思い出されてならないのです。
町を支配し、害を成す悪党どもを一掃することを生業としている凄腕ガンマンのふたりが主役の作品です。かれらはある町に仕事を頼まれ、市民の敵との最初の小競り合いにおいて、目の覚めるような圧倒的な強さを発揮し、凶暴な相手を震え上がらせ、ひとまず退散させました。当然、依頼した側の人々は期待した以上の働きに感動し、神業的なお手並みを口々に称賛します。
すると、ヘンリー・フォンダが扮するところの主人公は、褒めそやしてくれる人々に対して、かなり冷ややかな口調でこんな意味の言葉をさらっと吐くのです。
「あなた方は今はそうやって我々を大歓迎してくれますが、やがて、我々を敬遠するようになり、しまいには忌み嫌うようになるでしょう。平和が回復されたときにはもう我々に用がなくなり、我々の強さが疎ましくなり、しかも脅威を感じるようになるからです。これまで渡り歩いてきた町でもそうでしたから、この町も例外ということはないでしょう。自ら闘わずして、強者に頼む良き市民とは、所詮、そういう人々なのです」