東京電力はあれほどの大罪を犯したにもかかわらず、未だ罰せられることもなく存在しつづけています。そして政府は、原発に頼らないかぎりこの国の経済は成り立たないという抜きがたい確信にとらわれているのです。国民はというと、巨大企業とそれを支える権力に対して、普遍的な秩序を保持してくれるための必要悪と受け止め、怒りが通り過ぎてしまった今、消極的な意味においておのれ自身を問い直し、諦めと沈黙の世界へふたたび舞い戻りつつあります。
多くの人々は、たとえばこんな結論に手を伸ばしつつあるのでしょうか。理不尽も矛盾も不正もすべては国家という内部で生起する必須要因なのかもしれない。あるいは、こうです。自由とは、結局国家が支配すべきものであり、それ以外の自由などあろうはずもなく、権力が押しつけてくる不自由を自由と信じこんでありがたく押しいただいていれさえすれば、万事まるくおさまるに違いない。
もしそういうことだとすれば、この国の人々は果たして誰の生を生きていることになるのでしょうか。自分で自分を所有し、自分で自分を支配する自由にどれほどの価値があり、それが自由の核になるものであるということをまったく理解しないまま、その上に真っ当な人生を築こうとしているのでしょうか。言わずもがなのことですが、私たちは世界に単独で存在しているわけではありません。ために、孤独な自由に浸りつづけることも不可能です。ということは、摩擦や衝突を避けられない立場にあるということです。闘わずして人間らしい人間にふさわしい尊厳を手に入れることはできません。疲れたからといって、絶対に投げ出してはいけない怒りや悲しみもあるのです。
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