最終的な決着をつけるには戦争という手段に打って出るしかない領土問題であるにもかかわらず、また、小さな島のために多大な犠牲を払う価値はないと充分に承知しているにもかかわらず、それをたびたび思い出したように持ち出す双方の国家の意図は明白です。領土問題を再燃させ、国民感情を煽り、民族意識を高めるという狙いだけではなく、国民の不満や怒りの矛先をかわし、逸らして、もっと優先させなければならない、しかし、無能なせいでどうすることもできない深刻で重要な課題をうやむやにし、さらには、自分たちの大失策やばれそうになってきた悪事の数々を誤魔化し、そしてさらには、実力のない口先だけの政治家という烙印を押されて落ち目になった地位にまやかしの活気を与えようという魂胆なのです。
これは窮地に陥った為政者たちが古くから用いてきた、見え透いた常套手段なのですが、自分独自の思想と哲学を欠いた愚かな国民には絶大の効果があり、成功率は極めて高く、そのたびにかれらは、黴の生えた、ゆえに食すと危険な愛国主義の手引きによって、敵国という幻にとり憑かれ、束の間の憤怒によって気を紛らわせ、しばらくすると相変わらず前進の見られない国家の片隅にしょんぼりと佇んでいるおのれに気がつき、同時に、反省を介して目覚めることのない自分を再認識し、無益な怒りのエネルギーの放出でしかなかったことを悟るのです。
安っぽい煙幕を頻繁に張るようになった国家は、いずれ近いうちに荒廃と不毛という先細りの道を本格的に辿ることになり、それは致命的な破滅の前兆でもあるのです。それの繰り返しが歴史ということになるのでしょうが、愚かさの堂々巡りはいつ果てるのでしょうか。