ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑 162/164
第162話 運命はお導きの香り
「『特別なお導き』ね。実は俺にも出てるんだよ」
「え? そ、そうだったのですか!?」
「ああ。だが、ということは俺の望みを言ったっていいだろう。お前の望みであり、俺の望みである。そういう答えがあったっていいんじゃないか?」
「そ、それはそうですけれど……」
特別なお導きが願いを叶えるものなのだとすれば、俺の言い分だって聞いてくれたっていいだろう。
この世界を制御している、人ならざる神に、そんな柔軟さがあるのかどうかは知らないが。
「ディアナ。俺はお前のことが好きだよ」
「えっ…………えっ! ほっほんと?」
「ほんと。出会った最初から好きだ。いっしょに暮らしてて、何度も手を出しそうになったんだぜ」
「えっえっ、そんな。出せばよかったですのに」
「みんなもいたからさ。……ま、それはさておきさ」
「はっ、はい」
「ディアナ。お前と『永遠の愛』を誓うよ」
「わ、わたしもあなたに『永遠の愛』を誓うのです!」
その言葉と共に、一気に膨れ上がり身体から吹き出すディアナの黄金色の精霊力。
灰色の空を、輝く黄金色に染め上げるほどだ。戦闘中のみんなが、何事かとこちらを窺っている。
「特別なお導き」はこの世界最高の魔法だという。
少なくとも、ハイエルフ達の認識としてはそういうものだと、セレーネさんから聞いた。
彼女の認識では、それは愛する人と永遠に結ばれる魔法だから……ということだったから、だが、果たしてそうだろうか?
すでに無限の命を持っているハイエルフが、伴侶を不老不死にする……言ってみれば、そんな程度のことが、この魔法の世界で一番の魔法と言えるだろうか?
俺は、夢幻さんに見せてもらったタブレットで「かぐや」の物語を読んだ。
かぐやの人工知能にブレイクスルーが起きた原因とはなにか。
そのかぐやが持ち続けているたった一つの願いとはなにか。
その答えは、その言葉通りの意味ではない。
「愛する者と永遠を生きる」という言葉だけの意味じゃないんだ。
「で、では誓いのくちづけを――」
黄金色の光に包まれたディアナが、瞳を閉じる。
いつのまにか、剣戟の音は止み、世界は時を止めたような静寂に包まれている。
目の前には、輝く光のベールの中プラチナブロンドの長い髪を揺らして瞳を閉じた、全身を精霊紋で彩ったハイエルフ。