第二章:風と火と 37/104 第十四話:勇者
勇者とは、十年に一人程度生まれる人間の突然変異種だ。
【輪廻回帰】を使用すれば、少女よりも強い俺は呼べる。だが、
部分開放を街を出る前に使って十二時間経っていない。魂に傷がつくだろう。
それに、【輪廻回帰】を使用するには二十秒間、術式の構築だけに
集中し無防備になる必要がある。
この少女の前で二十秒も無防備になれば十回は死ねる。
【知覚強化】の対象範囲を半径300mから5mに限定することで、
脳処理の負担を軽減、ただし取得する情報の項目の増加。
【身体強化】を低燃費モードから、体の耐久限界まで上昇。
【プログラム】を汎用モードから、対人モードへ変更、さらに自己学習・効率化を有効。
【風の鎧】を起動。風を常に纏い、動きに合わせて風向きを変化、全ての動作を追い風で
高速化すると共に、状況次第で敵への妨害。気休め程度の防御を実施する。
【自己治癒能力強化】も併用したいが、俺の演算能力ではどう頑張っても四つが限界だ。
俺は先ほどから【風の鎧】を解除している。もう、その助けを借りずとも捌けるほどに
【プログラム】は最適化されているからだ。
「私達の痛みと怒りを思い知れ! 【狐火】」
「【突風】」
炎にあぶられた少女が地面に墜落する。表面が炭化し黒く染まっている。
死んだ。そう思ったが、その黒い塊がゆっくりと立ち上がる。
「油断したなぁ、死んじゃった」
「グラムディール! 【輪廻回帰】!」
「さあ、食らいつくそうか、【捕食】」
今の姿は、かつて吸血鬼と呼ばれていた頃の俺だ。
血を吸うというイメージがあるが、その本質は存在の略奪。
魔力も、魂も、何もかもを食いつくし、時には支配する。それが吸血鬼の本質だ。
「【解除】、グラムディール」