第二章:風と火と 29/104 第六話:火狐の伝統料理
100kg越えの大物のイノシシ二匹に、70kgほどのシカ。
可食部だけを考えても、150kgほどの肉だ。
エルフと火狐を合わせた250人で食べても半分以上残るだろう。それは保存食に加工する。
料理器具は、もともと、ジャガイモ収穫祭はするつもりだったので、コツコツと作っていた。
「君たちは、ジャガイモ班だ。作ってもらうのは、ポテトチップスとフライドポテトという料理だ」
地球でもっとも消費されているジャガイモの調理方法。だからきっと
世界で一番うまいに決まっている。
「イノシシの肉から脂を作って、それを加熱して、ジャガイモを放り込んで最後に塩を振るだけだから簡単だよ。まずは脂を作るところからはじめようか」
俺が背脂を溶けやすいように細かく刻んでから鍋にいれると、
こくりと火狐の女の子が頷いて、手をかざす。
「うん、いい感じだ。最後にこの浮かんできた狐色の塊をすくい上げると脂の完成だ」
実際、背脂で作った揚げカスはうまい。ただの豚で作った揚げカスでも、平成の日本では、 肉カスという名称で100g、300円ぐらいする高級品だ。
天然のイノシシのものなんて値段がつかないだろう。
サンドイッチの具にしても、スープに入れてもいいし、チャーハンや焼きそばにいれても最高だ。
このクリームみたいなのはラードって言うんだ」
パンの表面で熱せられたラードが溶けていき、あたりに甘い香りがただよう。
ラードに適した順に並べると、イノシシ、黒豚、豚、牛となるぐらいに、イノシシのラードは
別格のうまみをもっている。
「このアツアツのラードの中にジャガイモを入れる。まずはポテトチップスを作ろう。
これは超うす切りのジャガイモを使うんだ」
薄い芋はあっというまに狐色になり浮かんでくる。
それをすくい上げて皿に盛る。
最後に、火狐の村からとってきた岩塩を砕いて振って完成だ。
「次にフライドポテト、これは大きく切る」
スライサーは使わずに皮ごとジャガイモを八等分に切る。
フライドポテトは皮つきで大き目。これが王道だ。
「このポテトチップス、サクサクして面白い!」
「私は、フライドポテトのほうがホクホクして好きだよ」
「どっちも、すっごく美味しいよ」
次はステーキ班だ。
今日のメインディッシュなので気合が入る。イノシシの肉でも二番目に柔らかく、
ステーキに適しているロース肉をもって火狐たちのところにいく。
一頭から、十数キロしか取れない部位だ。ステーキにするには
これぐらいの肉を使わないといけない。
モモやスネ、バラ肉だと、ステーキにすると味が一段落ちてしまう。
本当はサーロインを使いたいが、人数分用意できないので諦める。
「焼き方は半生がベスト。この火力なら、横から見て、すこし鉄板に面しているところの色がかわったらすぐにひっくり返すといい感じだね」
「歯で、かみ切れる。こんな柔らかいお肉はじめてよ」