エステルドバロニア     作者:百黒   1章 魔物の国   2章 神の都  8/38

1 神都

 それを考えると人間ではあっても同じ神に深い信仰心を持つ同志。

そこいらの国と交渉するよりも遥かにマシで、街で暮らせれば

金銭で食事を賄うことが出来る。
 古き習慣を大切にする者たちもいたが、多くの者は近代化を望み、

過半数は街に。残りは遠い地へと旅立っていった。

 暫くの間は平穏だった。疎んでいた人間だったが宗教の繋がりとは恐ろしいもので、

毛嫌いしていたはずなのにいつしか馴染んでいた。
 笑いが絶えず、不自由なく神に祈りを捧げる日々。本当に平穏だった。

 ある日、エルフの男衆が隣の国に近い森に魔物が現れたので討伐してほしいと

元老院から頼まれ、快諾して皆で狩りへと向かった。
 その直後だ。神都を守る神聖騎士たちがエルフが纏まって住む地に雪崩れ込み、

問答無用で縛り上げていった。オルフェアもその中にいた。
 透き通るような蒼いフルプレートで全身を隠した騎士は、抵抗するものは殺し、

逃げるものは殺し、そうでないものは老若男女問わず縄で縛っていく。

 ほんの数時間前までの幸せが、一瞬で奪い去られた時だった。

 捕まったエルフたちは全員が首に【隷属の呪】を練られた黒い首輪をかけられ、

元老院の支配下に置かれた。
 隷属の呪は、決して元老院に危害を加えることが出来ぬよう心を縛り付け、

加えて命令に逆らえば激痛を伴う刺青を体に刻んでいく。
 黒い刺青が白い肌に多く刻まれている者は元老院や騎士団の慰み者にされ、

それ以外の者は種族的に魔術に長けていることもあって裏で動く諜報や

暗殺部隊として馬車馬の如く働かされている。
 エルフの男は皆、帰ってくることはなかった。恐らく神聖騎士に殺されたか、

他国に嵌められたかしたのだろう。今や最大規模を誇ったエルフの民は、

女と、子供と、醜い血を継いだ混血児しかいない。