近頃、配信での舞台や朗読劇を観劇する機会が多くなりました(職業柄、まだまだ自粛中なので……)。

チケットが比較的安価で、移動時間を考慮しなくてよく、アーカイブもあったりして、実際の舞台よりも気軽にチケットを買えてしまうので、ついついあれこれ手を出してしまいます。

覚書を兼ねて感想を書くことにしました。

 

今回は、2020年9月5日(土)~6日(日)、全4公演配信のみで行われた朗読劇『池袋ナイトアウルテールズ』。

公式サイト:https://ikebukuro-nightowltales.com/

 

脚本は、『記憶屋』の織守きょうや先生(記憶屋読んでないけど。今回のお話がとても好みだったので、実家の積読を取り寄せようと思います笑)。

出演キャラクターは3人、バー『ナイトアウル』のマスター、怪談を語る客・待鳥、怪談好きなバーテンダー・鳴海。

この3人のキャラクターのうち、待鳥と鳴海は4公演とも性格や関係性、演者を変更して演じられるという、なんとも豪華な公演です。こういう形のものは、いつもどの公演を購入するかすごく迷うのですが、今回は4公演とも観られてちょっとお得なチケットがあったのでそちらを購入しました。結果、やっぱり大正解。これは、全て観ないとお話が完結しません。4公演というより、本当に第1部~第4部。続き物でした。

本当に素敵な朗読劇を、ありがとうございました。

 

【第1部】9月5日(土) 14:00~

マスター:浪川大輔

怖がりな後輩・待鳥:下野紘

シニカルな先輩・鳴海:岡本信彦

 

まずは怖がりながら怪談を語る待鳥役・下野紘さんの語り方がすごい。待鳥が怖がってるからこっちは冷静に見れるかなと思いきや、完全にその恐怖が伝播してきちゃってこっちも段々怖くなってくる。間の取り方とか、早口になるところとか叫ぶところとか。

個人的に、3話ある怪談のうち、第1話の「先輩の部屋」が一番怖い。「あけて……」「聞こえなーい!!!」に待鳥と一緒になって叫んだけど、ここの取り乱し方はこの待鳥が一番好き。

 

次に鳴海。

第1部の鳴海は、シニカルって銘打たれてるけど結構Sっ気がありそうだなあって個人的には思った。待鳥を怖がらせたいというか、人が怖がるのを面白く見てる感じ。それでいて、自分は怪談に興味津々ながら、冷静に一歩引いたところから見てる。テンション上がっても我を忘れない感じ。高槻先生とは違うとこ(澤村御影先生の『准教授・高槻彰良の推察』の登場人物。怪異が実在するかもというシチュエーションに出会うと思わず誰彼構わず抱き着くくらいのテンションの上がりようを見せる)。

そして、怪談には詳しいけど、ちょっと人づきあいが不器用そうだなあというのが、ラストのマスターとの会話で浮き彫りになる。

待鳥が死んでいることを知らせない理由に、「せっかく会えたんだったら、すぐさよならしちゃうのはもったいないでしょう。彼がいなくなって、つまらないなあって思っていたところだったんです。どうせいつかは、消えちゃうんでしょうし。だったらしばらくは、いてくれる間は、このままでもいいんじゃないかなって」と語る鳴海に、マスターの独白。「それはね、寂しいって言うんだよ」。この一言が、鳴海の孤独を浮き彫りにしたようで、とても印象的だった。

 

【第2部】9月5日(土) 18:00~

マスター:浪川大輔

オラついた兄ちゃん・待鳥:岡本信彦

穏やかなその友人・鳴海:下野紘

 

第1部とキャストを逆転しての第2部。

待鳥は、怖がりで強がりな不良って感じ。強い口調は崩さないけど、怖くて強がってるのが透けて見えてるのが流石すぎる。「友人の部屋」での女幽霊の「こわい!?」と笑い声が滅茶苦茶怖かったけど、待鳥の「怖くねーし!!」にちょっと和む。怪談の怖さが増すほどかわいく見えて和む、個人的には一番かわいい待鳥だった。

 

鳴海のキャラ付けは、個人的には第2部が一番好きだった。

ぽつぽつ話すのに、怪異が出てきた瞬間目がきらきらして声のトーンが上がって若干早口になって、一番心霊オタク感が出てたような気がする。かわいい待鳥と相まってかわいい鳴海。アフタートークで、「待鳥と友達になる接点がないなと思って途中から怪談への興味を異常に出すようにした」と話していらしたけど、アドリブと思えないほどすごくマッチしてた。

そしてマスターとのラストシーン。個人的には一番切ないラストだなあと思う。鳴海は、待鳥を引き留めておくことがよくないことと自覚したうえで、待鳥の死を受け入れられないと独白する。「死は絶対的な別れのはずなのに……そこにいるから、そこにいるように見えてしまうから、さよならがうまく機能しなくて」。この台詞が、本当に好き。切ない。

 

【第3部】9月6日(日) 14:00~

マスター:浪川大輔

ウェイ系男子・待鳥:斉藤壮馬

ネクラなその友人・鳴海:花江夏樹

 

1日目とはキャストが変わり、全く新しい待鳥と鳴海に。

キャラ付けの方向性とかは第1部と第2部の好きなとこどりみたいな感じだったけど、揃ったら一番ぶっ飛んでた。

 

待鳥は、この待鳥が聞いていて一番怖いと楽しいと可愛いが同居してた。基本的な口調とかは一番かわいい感じ。怖がり方は第1部の待鳥と似てるかな、と思うけど、たぶん第1部の待鳥はお化け屋敷とか絶対行かない!みたいな感じでこっちの待鳥は行く行くー!って言って入ったら大騒ぎするタイプかなって感じ(伝われ)。

 

鳴海は、一番「所謂オタク」感。テンプレの。

ネクラ感が、怪談になった瞬間に目が輝いて食いついてくる感じがもうオタク。ああ、そういう人ねってなる。ちょっと一歩引いて付き合いたい感じで、ああこの待鳥だから一緒に付き合ってくれるのねって思った。待鳥と鳴海の繋がり方は、この二人が一番見えやすいというか、待鳥の話に食いつく鳴海を待鳥がああ……ってなりつつはいはいってしてる感が、一番友だちっぽかった。

 

第3部ラストは、マスターへの待鳥の独白。

「だって、やっぱり寂しいじゃないですか。さよならは」。

ここでうわぁああってなった。第1部の、マスターの「それはね、寂しいって言うんだよ」が頭をちらついて。あの鳴海は、「寂しい」という感情を表す言葉を知らなかったけれど、ここで待鳥からその言葉が出てくるのが、ああ、この待鳥はきっといろんな人と仲が良くて、でもその輪の中に当たり前に鳴海がいたんだなっていうのがわかって、全然別の話だってわかっててもすごく衝撃的だった。

 

【第4部】9月6日 18:00~

マスター:浪川大輔

しっかり者の先輩・待鳥:松岡禎丞

闇属性?の後輩・鳴海:岡本信彦

 

待鳥と鳴海は、第1部と先輩後輩が逆転。

この待鳥が一番年上っぽいというか、本当にしっかり者って感じだった。怪談の第一話だけが敬語で語られてて、第二話からタメ口になったのに驚いたけど、第一話はマスターに向けて、第二話第三話は鳴海に向けて話しているんだとすぐ気づいて、それからその違いを今まで全然意識していなかったことに気づいて愕然とした。今までのはどうだっけ?と思っても全然わからなかった。混乱。そして、最後の泣き演技といい、本当に一番惹きこまれた待鳥だと思う。

 

鳴海は、今までは待鳥より少し上位というか、立場が上、もしくは同等でも心霊現象においては待鳥より詳しいよっていう優位があったけれど、唯一待鳥より明確に「下」のキャラクターなので、最初はかかわり方が新鮮に感じた。けれど、どういう関係性だろうが、根本的に「心霊現象が好きな鳴海を許容する待鳥」という根幹があるのだなあと途中から思った。

 

ラスト、まさかのこうくるか!と。

自分の状況に気づいているけど気づいていないふりをしている待鳥と、待鳥が気づいていることに気づいているけど気づいていないふりをしている鳴海。この状況が続けられるうちは、とふたりともが思っている。切ない。

「多分、彼自身も、俺がいなくなることを寂しいと思ってくれていると思うので」。そういう待鳥に。

「だって、やっぱり寂しいじゃないですか。さよならは」。今度はこの台詞が、鳴海から出た。

お互いが見えることに理由なんてないのかもしれないって待鳥は言ったけれど、この二人の言葉がすべてなのかなあと思った。

そして、「寂しい」と、そう言える鳴海に、ああ、このお話は、第1部から第4部まで、パラレルワールドのお話ではあるけれど、確かに積み上げてきたお話なんだなあと。

 

そしてラストのラスト。

えっマスター!?え!?!?

「神様の死角」を守るマスターは……何者???