あらかじめ下調べしておいた峠に着いた。

 もちろん走り屋たちはHSTVが速度を規制するために生まれた団体だとは思っていない。

 どこかの走り屋のチームだろうかと考えていた。


「あの車・・・まさかロータス・エリーゼか?」

「珍しいな。でもクラッシュしたら終わりだな。」

「どうせどこかの金持ちがひけらかしに来たんだ。

 珍しい上に高価な車が来たものだから、人々がそのことばかり話している。


 そのころ玲治はエリーゼから降りて亮のRX-8のほうへ向かっていた。

 その間に人々のエリーゼに関する話を聞いてしまった。

「亮、そろそろ・・・」

「ああ・・・って、兄さん、まさかあいつらの話のこと、気にしてるのか?」

 亮は到着したときに運転席の窓を開けていたので、噂が聞こえていたのだ。

「大丈夫。気にしていないから。」

 それでもどこか噂を気にしているような玲治に対して、亮はきっぱりと言った。

「あんな奴ら、あんたのドラテクで見返してやればいい。」

 玲治は苦笑して首を縦に振った。


 玲治はエリーゼのもとに戻るとまず車の傷や割れの有無を確かめた。

 噂が噂なので、愛車に傷をつけられているのではないかと思ったのだ。

 幸い壊された形跡はなかった。

(これからは亮の車の近くに止めておいたほうがいいかも・・・。)

 そう思いながら、玲治は車に乗り込んだ。


 亮のほうも準備は出来た。

 打ち合わせで、RX-8の後にエリーゼが続くことになっている。

 いよいよ、HSTVが本格的に始動する。

 亮はRX-8を発進させた。

 RX-8が発進したことを確認し、玲治はエリーゼを発進させる。


 二台の車が道路上に出ると、案の定暴走している車がいる。

(S13か。まあ定番だな。しかし危ないな・・・。カーブで対向車線にはみ出しているじゃねぇか。)

 亮はそのS13を追うことにした。

 一方玲治も暴走しているシルビアの存在に気づいていた。

(亮はあのS13を追い越した後ラインをブロックするはず。しかしそれだと対向車と衝突する可能性もある・・・!)

 玲治は無線で亮に連絡を取った。

「亮、対向車がいないか先に行って見てくるから。」

「わかった。何かあったら知らせてくれ」

 その後、エリーゼがRX-8とS13を追い越し、S13を阻むかのようにカーブでドリフトして姿を消した。

(やっぱり。ビビッてアクセル抜いたな。カーブまでまだ距離はあるんだけどな・・・)

 やや減速したS13を見て、亮は苦笑した。そしてチャンスとばかりに追い越し、ラインをブロックしていく。

 カーブを抜けてもエリーゼは見えない。だいぶ遠くに行ってしまったのだろう。


 「対向車が来る」としばらくしてから無線で連絡が入った。

 S13も対向車線へはみ出す気配はない。多分向こうにも連絡が入ったのだろう。

(しかし携帯電話手に持ってたら最悪だな・・・。)

 そう思いながら亮は後ろのS13の挙動を気にしていた。


 その後。

 RX-8とエリーゼはもとの場所に戻ってきた。

 だれも彼らを「ドラテクのない奴」だとは言っていなかった。

 ただし、「あいつらは恐ろしい」という噂は広がっていたのだった・・・。

「あのドリフト、わざとだっただろ。」

 亮は普段ドリフトをしない玲治に向かってそう言った。

「どうしても許しておけなかったんです。あのドライバーが噂をしていた奴らの中にいたから・・・」

「どうしてそんなことが分かったんだ。」

「エリーゼに乗り込んだらちょうど人々がバラバラになるところで、その中にいた一人がS13に乗り込むところが見えたんですよ。」

微笑みながら玲治はあっさりと言った。

それほど愛車を悪く言われた恨みを持っていたのか、と亮は呆然として兄の顔を見ていたのだった。


<あとがき>

 まず全国のS13のオーナーの方、申し訳ございません・・・。

 単に峠でシルビアや180SXが多いからという理由で出したのですが・・・。

 

 HSTVの目玉は大規模な走り屋チームとの対決なので、ほとんどこの話は序章に近いものとお考えください。m(_ _)m

―暴走行為から引き起こされる事故を未然に防ぎたい。

 そのような思いから設立されたHSTVが、今、始動する。


 HSTVの活動は公道で行われる。公道には暴走行為をするドライバーだけがいるわけではない。一般車もいる。

 そのため、危険防止対策は万全にしておいた。メンバーに対する教育もしっかり行い、特別にルールも定めた。

 行政側の公認も何とか取った。半分脅しのようなこともやってしまったが・・・。

 準備は整った。


 最初は2名からのスタート。これから新しいメンバーを募集し、全国的に活動を展開していこう・・・。

 総リーダー、新藤亮。彼を補佐するのは兄の玲治。

 彼らの従兄の事故がきっかけで発足した交通自警団。

 HSTVが、今宵、誕生する。

・日向 穣

搭乗車種:TOYOTA Supra 2.5 Twinturbo-R(JZA70)


楓とはバイト先の同僚同士だった。(現在では楓とは別々の企業へ就職)

洋酒に詳しく、彼のマンションの一角はまるでカウンターバーのようになっている。

一見すると冷静に見えるが、彼の機嫌が悪いときに近づくのは相当なバカか命知らずだと言われている。


やむを得ず深夜の峠を走行していたときにA31にあおられ、おまけにドライバーの態度も悪かったこともあって腹を立てていたときに楓の紹介でHSTVのメンバーとなる。

そのA31に対するリベンジは成功したものの、ドライバーがHSTVのメンバーになってしまったのことを不快に思っているらしい。


HSTVでは峠部門のヒルクライムを担当。

車重などでいろいろと不利な70スープラを峠でもうまく乗りこなしている。

JZA80のほうが車重も軽くパワーもあることはわかっているものの、あえてJZA70にこだわって乗り続けている。(現在の車は2代目の70スープラ)


・望月 佳樹

搭乗車種:Nissan Sefiro(A31改;エンジンをRB26DETTに換装)


以前に穣のJZA70をあおった走り屋。

その後、穣に負けた(=追い抜かれた上に速度を上げられない状態に陥ること)ことをきっかけにHSTVのメンバーとなる。

不真面目そうに見えるが、実は物事にいつも真剣に取り組んでいる。そして穣の一番の理解者でもある。


彼のA31のエンジンはRB26DETTに載せかえられているが、アテーサET-Sは移植されていない。そのため、並みの腕のドライバーが運転すると挙動がかなり乱れる。また出力もかなり上げられており、ほとんど佳樹しか扱えないマシンと化している。


HSTVでは峠部門のヒルクライムを担当。よって穣と協力して取り締まりを行うことが多い。

最初のうちは衝突(というより穣が一方的に佳樹を嫌っていた)もあったが、現在では二人の仲はだいぶマシになってきている。

・羽田 楓
搭乗車種:Lancia Delta HF Integrale Evoluzione

亮とは中学生のときから同じ学校、クラスに所属しており、周りからは「腐れ縁コンビ」と呼ばれる。
なんと大学時代でも同じ部に所属していた。
一見すると亮とは仲がいいのか悪いのかよくわからない。

免許取り立てのころにいきなりアルファロメオ・アルファ145を中古で購入して乗るなど、ラテン車をこよなく愛している。(たとえ故障が頻発しても)
就職後しばらくしてからランチア・デルタを購入。
「エアコンは効かないからあっても重量増加の元になるだけ」と、エアコンレスにするなど、かなりスパルタンな車になっている。もちろんオーディオレス。それでも遠出に使っていたりする
WRCでデルタに黒星をつけたセリカGT-FOURには絶対負けたくないと思っている。

HSTVでは情報収集などの裏方に回り、あまり実地での取り締まりは行わない。
だが、場合によっては取り締まりに参加し、兄弟を支援することがある。
・新藤 裕也
搭乗車種:Mazda RX-7 SpiritR TypeA (FD3S)
(最終型FD。ボディカラーはイノセントブルーマイカ)

亮・玲治の従兄。
兄弟がスポーツカーに乗るきっかけを作った人物。

目標は「FDでポルシェ、フェラーリに勝つこと」
峠や首都高を走っているとよくGT-Rやランエボにバトルを挑まれることが多いらしい・・・が、本人は相手にしない。(サーキットでしか本気で走らない。)
亮が中古のFDを購入しようとしたときに、「ロータリーエンジン搭載車は新車のほうが望ましい」と、あえてRX-8を薦めた。

峠を走行中、走り屋の暴走行為が元となった事故に巻き込まれる。
その後、FDに乗ることを避けていたが、HSTVの首都高部門にディアブロが加わったことによってかつての思いが再燃、HSTV主催の走行会でサーキット走行を再開する。

・柏原 明日香
搭乗車種:Mazda MAZDASPEED Axela (BK3P)
(ボディカラーはトゥルーレッド)

亮の母方の従姉。
兄弟のよき相談役。

ホットハッチ・フリークで、FF最強といわれるマツダスピードアクセラ(以下MSアクセラ)を予約して購入する。
亮には「MSアクセラをチューニングすればランエボにも勝てる」と言われているが、彼女はそうは思っていない。(パワーはあってもFFでは限界があると考えているため。また、亮がマツダ党であることを考え、話半分に聞いたためだと思われる)豪快な走りの車を好み、彼女にとってMSアクセラはぴったりの車であった。

HSTVの活動に直接参加はしていないが、情報収集などの面でサポート役として働いている。
・新藤 亮
搭乗車種:Mazda RX-8 TypeS (SE3P)
       BMW E36 M3
(ボディカラーはともにブラック)

この物語の主人公。
快活で派手好きな性格だが、厳しい一面を見せることもある。
コンピューターに詳しい。
自動車産業においてIT技術が導入されるようになると、いち早くその時流に乗り、成功を収めた。
従姉の裕也が走り屋の暴走行為によって起こった事故に巻き込まれたことをきっかけに、HSTVを創設する。

絶対的パワーのないRX-8を購入して以来、「コーナー旋回スピードの低下をいかに抑えるか」を自らの課題としている。
特にRX-8搭乗時のコーナーリングスピードは車の特性とあいまって異常に速いとも言われている。
M3を購入したのはヒルクライムにおけるパワーを求めたため。
ドラテクはかなりのものだが、MR車を乗りこなすことは苦手である。

・新藤 玲治
搭乗車種:Lotus Elise R(トヨタ製2ZZエンジンを搭載したもの)

亮の異母兄であり、補佐役。
人の上に立つことよりも補佐役に回ることを好む。
外見、性格ともに柔和に見えるが、結構辛辣な面もある。
大学では企業法学を専攻していた。(このことが企業の際に役立つこととなる)
亮とは二人暮らしで、オン・オフともに亮を支えている。

己のドラテク向上のために日々努力している。そのためか、ハイパワー車に乗ることを避けている。
車を選ぶ際はパワーより軽さを重視し、ライトウエイトスポーツにこだわっている。
ドラテクは亮より上とも言われており、亮のRX-8を負かしたことも多々ある。(玲治自身はこのことについてはパワーウエイトレシオの差だと説明している)
・HSTVとは
High-Speed Traffic Vigilante group(高速交通自警団)の略。
近未来において行動における暴走行為を取り締まるために結成された。
メンバーは全員民間人である。
行政側の公認を得ているが、リーダーの新藤亮が圧力をかけて公認させたとの噂も・・・。
普段はアマチュアレーシングチームとして活動している。

・構成
HSTVは峠を主に取り締まるグループと高速道路を主に取り締まるグループとに分かれている。

・メンバーになるには・・・
まず実技テストと学科試験に合格しなくてはならない。
実技テストはジムカーナとサーキット走行で基準タイムを切れば合格。
学科試験は道交法関連や危険予測の問題が中心。かなりの難問といわれている。

・メンバーになったら・・・
まず、チームとしての活動に参加したり、実地へ同行することでドラテクと取り締まりにおける知識を身につける。
グループリーダーの許可が下りるまでは本格的な取り締まりは行えないようになっている。

・下見
峠のローカルルールなどを知るために、メンバーが本格的な取り締まりに入る前に潜伏することがある。(事故防止のため)