あらすじ

東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然に出会った山音麦（菅田将暉）と八谷絹（有村架純）。好きな音楽や映画が嘘みたいに一緒で、あっという間に恋に落ちた麦と絹は、大学を卒業してフリーターをしながら同棲を始める。近所にお気に入りのパン屋を見つけて、拾った猫に二人で名前をつけて、渋谷パルコが閉店しても、スマスマが最終回を迎えても、日々の現状維持を目標に二人は就職活動を続けるが…。

感想

まず、ひとこと。。。

これは...めっちゃよかった...

ありがちなラブコメだと思って、見てしまった人はショックで映画館の席から立てなくなるような衝撃があると思います。

（ミリオンダラーベイビーを前情報なしに観た時と同じようなショックがあると思います。）

ありがちなラブコメっていうのも半分は正解ですけどね。

二つのタイプの恋愛映画

恋愛映画はどこをゴールにして物語を描くと全く違う話になりますね。

例えば、付き合うまでをゴールにした映画だと、地味なオタクJKが王子様系ツンデレイケメン（ジャニーズ）と優男系王子様（3代目J　So...以下略）に猛アタックされ、選べない！からの壁ドンや床ドンやズンドコを経て、絶賛売り出し中ジャニーズとキッスで、めでたしめでたしってな感じでハッピーエンドの映画になります。自分は全く観ないですが、これはある層の需要に応えているのである程度のヒットは確実なわけです。

しかし、恋愛の終わりから始まりを描く映画は全く違います。

奇跡的な出会いや恋愛ピーク時のいちゃいちゃ、、、だけでなく、二人の別れを描きますし、目をそむけたくなるような喧嘩も目の当たりにします。そんな二人のすれ違いを見るのは切ないし、別れた後は果て無き間違い探しをして現実逃避をしてしまいます。

しかし、こういったテーマを通して描かれるのは二人の成長です。

はたから見れば、長期間付き合って別れたってだけの話ではありますが、この期間に感じたことすべてが二人の人生にとって尊い出来事で、つらい経験やトラウマであってもそこに成長した自分を見つけ、その一つ一つの記憶を花束の様に束ねて死んでいく。

この映画では、麦絹カップルを通じて描かれますが、別れ話をするために行ったファミレスにいた大学生の男女、麦君の先輩のお揃いのタトゥーを入れたカップルを通してでもこのテーマを語ることは可能です。

それほどに普遍的で残酷で、美しいテーマです。

就職を通して変わっていく二人

二人で生活を続けるために就職をすることを選んだ二人。。。ここから二人の関係は崩れ始めます。

就職した二人（特に麦君）の変化には胸をえぐられるような辛さがありました。

就活を始める前の麦君は就活中の絹ちゃんに面接官なんて大した人間じゃないよ（意訳）なんて言っていましたが、

社会人になった麦君は営業先のお偉いさんに唾を吐かれてもあの人は偉い人だからなんて言っちゃうくらい変わってしまいます。

二人のすれ違いは徐々に増え、大学時代・フリーター時代に二人でやっていたゲームや映画・演劇・小説にも麦君は関心を持たなくなります。でも、直接的に二人が不満をぶつけあう場面はそんなにないところがリアルだし、「おもちゃ使ってみたら？」なんていう女友達もめちゃくちゃリアルでした。

結婚しよう

普通なら「結婚しよう」なんて言葉は幸せの絶頂にいる男女が使う言葉ですが、この映画では全く違いました。

むしろ、悪魔の囁きに聞こえましたね。

麦君が「結婚しよう」というシーンは二回あります。特に恐ろしかったのは二回目、ファミレスのシーンです。

絹ちゃんに別れを切り出された麦君は言います。「結婚しよう」「みんな嫌な部分もあるけど我慢して家族になるんだよ」「自分には二人の幸せな家族の姿が見える」なんて。

要するにこれはこういうことです。「こっちの世界に来いよ。幸福な人生なんて諦めて現実見ろよ。みんなやってるからさ。」

確かに、これは正論です。ですが、麦君がこんなことをいうなんて。。。

イラストでは稼げないから。当たり前に残業させるような会社に入ったから。生活のためには仕方ないから。。。

間違い探しをしても果てはないですが。これが変わってしまった麦君の姿であることには変わりません。

辛い。。。あの幸せそうな二人が。。。

この映画で変わってしまったのは麦君の様に見えますが、麦君視点で絹ちゃんを見ると麦君にも共感することは出来ます。

やりたくない仕事を二人の生活のために始めたのにいつまでもゲームや漫画のことばかり話す絹ちゃんは麦君から見れば、いつまでも学生気分の抜けない幼稚なかまってちゃんで。二人のために頑張っている自分を尻目に絹ちゃんは楽しそうなイベント会社に転職しちゃいます（しかも、浮気してたっぽい）...

そりゃ、イラつくわな。

二人の成長

二人は別れを選択し、同棲も解消。

冒頭のカフェのシーンにつながるわけで。

そんでイヤホンの話があるわけですね。うまい脚本ですね。

別れにばかり焦点が言ってしまう恋愛の終わりでも、一緒に過ごした時間や思い出は二人の中で消えていないからこそのあの場面なわけです。

これはまさに、自分勝手でナルシストなアイアンマンがラストでは自己犠牲を選択し、自分の命を懸けてアメリカを救ったキャプテンアメリカがラストでは自己の幸せを選択した、あの映画に似ていますね。二人の出会いは確実に二人の人生に影響を及ぼしあっていたわけです。

そういう意味で言えば、アベンジャーズも花束のような恋をしたも同じようなテーマの映画だったということが出来ますね！(無理矢理）

この二つのラブストーリーは一見、別れを描いた悲しい物語ではありますが、その出会いは二人の人生に変化をもたらし、他者との関わり合いの中で生きていく我々の日常を輝かせてくれます。

日常的な小さな出会いも、5年間の大恋愛も、11年間のMCUもそれぞれが一本の花で。

人生は大きな花束なんですね。

”花束みたいな恋をした”と”アベンジャーズ エンドゲーム”

”花束みたいな恋をした”と”アベンジャーズ　エンドゲーム”