夢を見た



母が台所で晩御飯を作っている




トントントントントントン

今日はご馳走よ











おせおせー!


遠くから父の声が聞こえる
















ほとんど記憶のない父が

相撲を見て高笑いしている

 

チリチリンと風鈴が聞こえ

それに負けない蝉の声が

遠きふるさとの記憶を蘇らせる














母さんのご飯はおいしいなぁ




ズズズ‥‥‥

パリパリ‥‥

カチャカチャ‥‥‥



一粒残らず平らげた茶碗に

父がお茶を注ぎ

ごちそうさま

満足げに箸を置いた










僕は夢から覚めた


















父は僕が8歳の時亡くなってしまったが

いつも人生の分岐点の時に

枕元に立ってくれた






  


 





あのどこかにいるのよ

母は微笑みながら空を指さしていた

子供の頃の僕はそれを信じた
















父が教えてくれた刀の使い方は

鉛筆削りができてからも

僕の愛用具となった
















いつも強い母だったが

チリチリン

ミンミンミン

その音を聞くと

涙していた















僕は大人になり

捨てるに捨てれなかった虫かごの中に

蝉の羽が入っているのに気づいた
















すでにこの世にいないはずのセミは

虫かごの中で

確実に存在していた

  









僕はその羽を

父のメガネケースの中にそっとしまいこんだ















僕のふるさとも

すでに宅地開発でなくなってしまったが

僕が見た夢の中では

当時のまま生き続けていた







決して消えることのない

空の星になったのだ







  






チリチリン

ミンミンミンミン





今年もその季節が来る。

星はビルのネオンで寂しげだが

決して無くなることのない星に

僕は永遠の命を感じる

星に近づく僕を

優しく包み込んでくれるのだ















ミンミンミンミン


お父さーん

相撲がはじまるよー