【品川裕香】 教育ジャーナリスト

「LD・ADHD・アスペルガー症候群 気になる子がぐんぐん伸びる授業
                          ―すべての子どもの個性が光る特別支援教育」
などの教育にかかわる書物を出しています。
残念ながら私は品川氏の書籍を読んだことがありませんので,詳しい内容はわかりませんが,
この本に関しては,出版社/著者からの内容紹介やカバーの折り返しに次のように記されていました。
●特別な支援が必要な子を伸ばすアイディア集
 特別な学習支援が必要なLDの子や、パニックを起こす子、おしゃべりを続けるといったADHDの子を、
 教室の他の子どもたちにも通じる方法で支援するアイディアを
 4コママンガも使ってわかりやすく紹介します。
●「LDもADHDもアスペルガー症候群も、私は勉強したからもうだいたい知っています」。
 そう思われた方、ちょっと待ってください。
 実は、LD、ADHD、アスペルガー症候群などとひとくちに言っても、
 一人ひとり状態像がまったく違います
●気になる子をさりげなくサポートしている先生は、以前から全国に確かに存在したのです。
 その技を学校全体のシステムとして広げること、これこそが特別支援教育ではないでしょうか。

一見なるほど!とも言いたくなるのですが,「ちょっと待ってください」とは,こちらのセリフです。

1点目。
特別な学習支援が必要なLDの子や…」と書かれていますが,そもそもこれがおかしいと思います。
氏は特別な学習支援が必要な子どもとして,LDの子どもなどをあげていますが,
本当にそうでしょうかねぇ。
金子みすゞさんの有名な詩「みんなちがって、みんないい」をタイトルに引用した本も
氏は出版しているのですが,この詩の意味するところは一人ひとりの個性を尊重しようということです。
一人ひとりの個性を尊重するためには,一人ひとりに適した指導が求められます。
つまり,
 LDなどの子どもにだけ,特別な学習支援が必要なのではなく,
                      すべての子どもに特別な学習支援が必要
ということです。
LDの子どもといって子どもを分けることは,
かつてハンセン病患者が隔離され,偏見の目で見られてきたような,
新たな差別意識を生み出すことを危惧します。
2点目に氏は一人ひとり状態像がまったく違いますと言っております。これはその通り。
しかし,LDなどの子どもに限ったことではありませんなぁ。
誰にでも当てはまり,誰でも知っていることなのに,わざわざ「ちょっと待ってください。」とは,
教育ジャーナリストとして何を訴えたいのか理解に苦しみます。
3点目の「技を学校全体のシステムとして広げること=特別支援教育」に至っては,
もはや言語として異常ですな。
というわけで,大変恐縮ですが,私としてはこの方も日本の教育を語る上で,資質不十分かと思います。

こんな記事を見つけました。
国から補助金等を頂いている社団法人首都圏産業活性化協会なる団体が主催の講演会を2回開いております。
タイトルは,
 第1回「間違えだらけの広報活動。メディアを制する者は市場を制す!」(平成17年9月13日),
 第2回「ライバルに差をつけろ!困るほど注目される実践的な広報術」(平成17年10月20日)。
ライバルに差をつけろ!と教えられるような教育ではなくて,
仲間から教えてもらったり切磋琢磨できる教育をわが子にはしていきたいのですが…。


【白石真澄】 東洋大学経済学部教授

いつものように,Wikipediaによると,

●専攻は、少子高齢化と地域システムの研究、バリアフリーの研究。
 参考白石真澄 – Wikipedia

ということで,さまざまな場所で講演を行っています。
また,公明党とのつながりがあるのか,つながりを求めているのか,
同党と対談するなどの活動も行っています。
与党に公明党がいるおかげで,自民党の暴走を若干抑制しているとは思いますし,
福祉を大切にするという点では評価できるのですが,
支持母体が宗教団体という点では,政教分離の観点からいかがなものかと思っています。

2004年4月27日に第2回規制改革・民間開放推進会議が行われ,
その中で白石氏は「『教育』分野において重点的・集中的検討が求められる項目(案)」として,
次のような提言をしております。

 ●教育現場への権限委譲→ヒト、モノ、カネの裁量の拡大
  各地域の現場が自主性を発揮し、地域の実情に応じた特色ある学校づくりを推進することや、
  きめこまやかな指導によって学力の向上をはかり、
  国際競争に勝てる人材を育成することが求められている。
 ●利用者の選択肢の拡大→多様な主体の参入および競争促進
  学校教育に対する国民に要請は高度化、多様化が進んでいる。
  すでに構造改革特区では、株式会社やNPOによる学校などが動き始めているが、
  さらに多様な主体の参入を促進し、競争環境をつくることで教育の質を向上させ、
  利用者にとっての選択肢の拡大をはかる必要がある。
   参考 内閣府 規制改革・民間開放推進会議 - 会議情報 - 第2回本会議配付資料

1点目。国際競争で勝てる人材を求めている方とはどのような人材でしょうか?
そのような人材を求めている方もいるでしょうが,それが多くの国民の意見とは思えません。
学力向上などと並列に書かれているため,間違ったことを主張していないように見えますが,
教育の目的を理解していないことを示しているかと思います。
2点目。今日における教育バウチャー制度的発想ですが,
選択肢拡大のためには選択のための豊富な情報が必要です。
氏による本案が提示された2004年というと,
学校ごとの成績を公表したサッチャー英国元首相の教育改革が
失敗政策であったことが明らかになっていました。
それにもかかわらず,選択肢の拡大と競争促進を提案するとは,学者としては勉強不足もはなはだしい。
ましてや,学校の株式会社化については,
株主の要求どおりの教育を求められる可能性が高く,
会社の利益のためだけの人材育成の場に可能性が否定できないかと思います。

教育基本法では
 第1条(教育の目的) 
  教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、
  真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、
  自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行われなければならない。
 第6条(学校教育) 第1項
  '''法律に定める学校は、公の性質をもつものであつて、
  国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。'''
   参考 教育基本法
とあり,
株主の意見を受け入れなくてはならない株式会社の学校では,
同法に違反,廃校,路頭に迷う子どもたちの出現という可能性が否定できないかと思います。
再生会議の中にいる某居酒屋経営者と同じく競争原理推進派である白石氏は,
教授の肩書きこそあれ,表向きは福祉を口にしていますが,思慮が浅いとしか言いようがありませんなぁ。