● ただ今の当念よりほかなし

 「人として一番心がけ、修行すべきことは何ぞや。」と尋ねられたら、、ど
う答えなければならないか、まずいってみよう。ただ今に徹することである。
しかし、このごろの人々は気が抜けたような感じである。活気のある顔という
ものは今に徹しているものである。いろいろなことを行っているうちに、胸の
中に手ごたえのあるものができてくる。これが君に対して忠、親に対しては孝、
武士に対しては勇になる。これがすべてに対しての根本である。またこれを真
に理解することは難しいが常に維持することはさらに難しい。今を生き抜くと
いう覚悟以外にないのである。

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 「人として肝要に心懸け、修行すべきことは何事にて候や。」と問はれ候時、
何と答へこれあるべきや、まづ申して見るべし。只今正念にして居る様になり。
諸人心が抜けてばかり見ゆるなり。活きた面は正念の時なり。万事をなす内に、
胸に一つ出来る物あるなり。これが君に対して忠、親には孝、武には勇、その
外万事につかはるるものなり。これを見つくる事もなりがたし。見つけて不断
持つ事又なりがたし。只今の当念より外はこれなきなり。
                          (葉隠聞書1-61)