このところの湿気と暑さには参っておられる方も多いと思います。先日、お施主様(建て主様)とのプランニングの打合せで、こんなお話しが出ました。おもしろいお話しでしたので、ご紹介したいと思います。
建て主様:「夏は縁側でスイカや、枝豆に冷えたビールっていうのがいいですね」
矢 島 :「はい、そして団扇あおいで、花火でも見れば日本の夏も捨てたも
のじゃないですね」
建て主様:「でもこの湿気と暑さには参りますね。駅の階段昇るのが重くて。」
矢 島 :「高断熱住宅先進国のヨーロッパの夏はカラッとしているといわれるの
に日本の夏はベタベタですね。」
建て主様:「だから日本では風がよく通る家がいいですね。そして、軒が大きいこ
とも大切ですよね。この縁側のように。」
矢 島 :「はい」
建て主様:「暑いのは西日だっていいますよね。西日は庇じゃ防げない。」
矢 島 :「はい、西日は太陽高度が低くなりますから、横殴りの日射になりま
す。ですから、すだれや植木で遮蔽するといいですね。」
建て主様:「今の住まいはまるでそういう配慮がなくて、猛烈に暑いんです。居間
で冷房しているんですが、2階に上がると、どうしたのこれってくらい暑
くて。」
矢 島 :「そうですか、それではどうやって寝ていらっしゃるんですか?」
建て主様:「冷房かけて寝るんです。」
矢 島 :「それは身体に悪いですね、冷房は普段でもしないほうがいいです
ね。」
建て主様:「タイマーで午前2時くらいにはきるんだけど。」
矢 島 :「運転止まったらまた汗だくってことですか?」
建て主様:「寝ちゃえばこっちのものって感じですね。とにかく今の住まいは断熱
がちゃんとしているわけでもないし、昔の家みたいに風がよくとおるわ
けでもない…中途半端な家は冬も夏もいいことないですね。
ところで今提案してもらっている家はヨーロッパのように高断熱・高気密
の家だと、夏は暑いんじゃないんですか?」
矢 島 :「はい、みなさんそのようなご質問をされます。ですが実はとても涼しく
て、プランニングのしかたで、エアコン1台で家全部快適なんです。」
建て主様:「そうなんですか、高断熱・高気密でも涼しいだなんて…不思議です
ね。」
夏という季節はベタベタと湿度が高く、ねっとりと暑いです。夏なんてこんなものさと思ってヨーロッパに行くとカラッとしててとても爽やか、こんなに違うものなのかと驚かされます。夏といえば農家の縁側で、稲穂が波のように揺れるのを眺めながら、昼寝をする光景が浮かんできます。
日本の夏は深い軒の出をもつ家の中を風が抜けることで快適になります。一方南欧では建物が切迫する狭い路地が迷路のように走り、空はほんのわずかしか見えません。風よりも日陰をつくることで涼しさを生み出しています。カラッとした気候だからこそできるものです。これを日本でやれば、風が澱み、暑苦しくて、物が腐りそうな雰囲気です。これほどに気候的な違いで建築は様変わりします。
日本の断熱・気密化が難しいのはベタつくように暑い夏をもつからで、断熱・気密化という言葉を聞いただけで暑苦しくなってきます。通風で涼風を得るのが日本らしさとすれば家は開放的であるべきですが、現実は涼風を得られるような環境になく、冷房があたりまえになりました。冷房運転中は開放的であってはいけません。この通風と冷房との矛盾をどうこなすかが日本の住宅の断熱・気密設計の難しさであり、また面白さといえます。
この打合せの続きと夏の高断熱・高気密住宅のお話しを次回以降、数回に分けてお話ししてまいります。どうぞみなさま、楽しみにしていてください。