昨日、建て主様と設計打合せで、住宅設計における環境配慮という議題が出ました。
「環境」という言葉が指し示す範囲が広範ですが、この環境デザインと家づくりの空間デザインについていろいろな配慮事項が考えられますので、私たちの考え方について、少しづつお話ししていこうと思います。前提とする断熱地域区分を私の出没するエリアの断熱地域区分の平成11年基準でのⅣ地域、新しい平成25年省エネ喜寿でのⅤ、Ⅵ地域をベースに考えます。その他の地域区分では、その地域専用の考え方もありますので、整理してお話しします。
家づくりのプランニングにおいて、多く建てられるのが2階建てです。プランニングのすすめ方は、
敷地を読む→平面を計画する→断面を計画する→内装・外装を考える~という流れで進められることが多いのですが、今回は、わかりやすい断面を計画するときの階段と吹抜けについて、お話しします。
階段や吹抜けは、建物を垂直方向に貫く要素です。これらを起点に上下方向の視線のつながりを作り出すことができます。環境の側面からみれば、垂直方向に伸びる空間では、上下の温度差が生じ、空気・熱の流れを作りやすいともいえますし、空気や熱の流れができてしまうともいえます。
階段や吹抜けの配置によって、空間の豊かさが印象づけられると共に、家全体の環境が左右されます。階段や吹抜けは効果も大きいですが、扱いを間違えると影響も大きい、劇薬のような存在なのです。
階段
階段は一般的に北側に配置されることが多いです。一時的な通過動線なので、日照条件の不利な方へという発想です。階段室を空気の通り道として考えるならば、あえて家の中心に配置して、外周部から中央部へとの空気の流れを作り出すことも考えらます。特に周囲が建て込んでいて、水平方向に風が抜けにくい敷地においては有効なアイディアといえます。あるいは、階段室を南側に配置して、2層にわたる温室状の集熱空間として位置づけるというのも一つの考え方です。面積的な制約などから少なくなった縁側のような緩衝空間を、階段室としての役割を重ね合わせることで実現することも考えられます。空気の通り道としてみたとき、蹴込みをなくしたスケルトン階段とすれば、空気が流れやすく、視覚的にも軽やかとなります。しかし、小さい子供さんが段板の隙間に挟まる事故も起きているので、注意喚起が必要です。
■階段配置と熱・空気の流れ
吹き抜け
吹き抜けも、階段同様上下方向の空気の通り道として位置づけられます。下部を滞在場所として用いられる場合には、コールドドラフトという窓辺などで冷やされた空気が、上から下へとの空気の流れを作り出すこと、冷たい風による気流感を感じ、快適性を大きく損ねる現象の対策を講じておく必要があります。コールドドラフトへの対策は外周壁や屋根の断熱強化が基本となりますが、吹き抜けの面積が小さければ水平ブラインドなどの水平区画を設けることも考えたいです。水平区画を設ければ、気積が抑えられ冷暖房の効率の向上にもつながります。そもそも、吹き抜け直下にはテレビ視聴など滞在時間の長いアクティビリティを割り当てないという平面計画上の工夫も大切になります。また吹き抜け上部にこもった熱が、他の部屋に悪影響を与えないよう、吹き抜けに面する上階の室内開口は建具で閉じられるようにしておくとよいです。また、吹き抜けにおいては、階を越して音が伝播することとなります。思わぬところから音が伝わると、心理的な不快感が増します。静寂えを必要とするエリアに音がまわらないよう、吸音、遮音にも気をくばりたいものです。
階段や吹き抜けでの空気と熱の流れ
これらの垂直要素によって、家全体の空気の流れができ、家の中に風上と風下がつくられることとならます。こういった自然の空気の流れに、機械によって作り出される空気の流れを重ねられれば、より効果的となります。喫煙者がいる場合には、風下側に配置しておけば、家全体の空気質を良好に保つことにもなります。さらに、階段や吹き抜けを利用して、熱の流れを重ねあわせることにもつなげられます。天井扇を階段室上部に設置し、夏季は熱気を排出し、冬季には逆に暖気を吹き下ろします。さらに、階段室や吹き抜けの上部や下部に冷暖房機器(エアコン、輻射パネル)を設置し、低出力の機器を連続運転させ、動線空間ひいては家全体を緩やかに環境制御するという発想もあります。
なお、高所に開口を設ける際には、その開閉方式やガラス・網戸の清掃方法も忘れずにチェックしておきます。
■吹き抜けまわりの熱・空気の流れ
■吹き抜けまわりの熱・空気の流れ