早朝、道路の脇で倒れているところを見つかった。搬送された病院で死亡が確認された。亡くなったのは、21歳の女性。倒れていた現場には、自転車が転がっていた。自転車に乗っていて、何かの原因で倒れたらしい。警察は交通事故に巻き込まれたひき逃げ事件ではないかと捜査をはじめた。
警察が調べたところ、女性は職場の友人たち4人で夜遅くまで、近くのお店でお酒を飲んでいた。日付が変わったころに飲み会は終わり、女性は自転車で自宅に向かった。女性が倒れていた現場は、家への帰り道にあった。
解剖台の上の女性を見ると、顔や手足にはすりむいた傷があった。自転車で倒れた時にできたのだろう。死因になるような大きな傷はできていない。
お酒を飲んだ帰りに亡くなった人が運ばれてくるのは珍しいことではない。自転車で帰る途中の人もいる。女性がどのくらいお酒を飲んだかは、解剖が終わった後で、血液のアルコール濃度を調べればわかる。
こうした時に気をつけなければならないのは、首に致命傷ができていないかどうかということだ。お酒を飲むと筋肉の緊張が緩む。注意力が散漫になっているので、倒れたり、何かとぶつかったりしやすい。そのときに、筋肉を強張らせることが難しい。首が大きく後ろ側に曲がって、首の骨が折れてしまうことがある。
首の骨に骨折があると、骨折したところが出血する。女性の首の骨を見たのだが、出血はない。首の骨は折れていないらしい。
気になることが見つかった。肺が入っている胸腔と呼ばれる空間に、水が溜まっていたのだ。左右合わせて500ミリリットルほどもある。どうしてこんなに胸に水がたまっているのだろう。溺死した人では、鼻や口からの肺に飲み込んだ水が時間を経て肺から胸腔にしみ出すことがある。だが、この女性は溺死するような場所に倒れていたわけではない。肺を切ってみると、中からは水分が溢れてきた。肺の中は水浸しという状態だった。
解剖を始めるときは、何か体の外から大きな力が作用して、亡くなったように思われたのだが、それを示す証拠はなかった。肺に水が異常にたくさん溜まっていることだけが異常だった。
女性の死因は、肺水腫と呼ばれる。肺水腫を起こす原因はいろいろあるが、お酒を一度に多量に飲んでも起こることがある。解剖後に女性の血液のアルコール濃度を検査したところ、泥酔していたことがわかった。昔、有名な歌手の人もお酒を飲んだ後亡くなって、解剖された。死因は、肺水腫だった。
女性は会社の友人たちと女性会をした帰りに亡くなったらしい。この女性にとって、最後の女子会となってしまった。念のために言っておきたいのだが、お酒を飲んで自転車に乗ると、交通違反になる。自動車を運転する時と同じ法律が適用されることになるので注意したい。