高齢の二人姉妹が自宅で亡くなっているところを見つかった。遺書が残されていた。二人が倒れていた場所近くには、薬の空パケがたくさん残っていた。姉は精神疾患を患っていて、病院に通院していたという。

 遺体は死後大分時間が経っているようだった。お腹のあたりには、緑色の変色が現れていた。

 解剖してもはっきりとした死因はわからなかった。だが、二人の胃の中には、白い粉が入っていた。薬を多量に飲んだのかもしれなかった。

 解剖が終わった後で、血液検査を行うことにした。薬物濃度を測るためである。数日後、結果が分かった。やはり、精神科で処方されている薬が検出された。濃度は致死濃度に達している。死因は、薬物中毒ということになる。

 現場には空になった空パケが100錠以上あった。これだけの量の薬を服用せずに、ためていたのだろうか。最近では、処方薬による中毒死が起こらないように、薬の成分も処方の仕方も以前と比べて改善されているという。それでも、こういったことは起こる。

 山中で頭蓋骨が見つかった。警察は頭蓋骨の見つかった現場近くを捜索した。すると、胸や腹、手足の骨の骨が次々に見つかった。

 頭蓋骨には、性別によって特徴のある部分がいくつかある。頭蓋骨を見れば、性別を推定することができる。手足の骨の長さから身長も推定できる。白骨の主は、男性。身長は170センチメートル位を推定された。

 白骨が見つかってから2ヶ月ほど経って、警察から連絡があった。頭蓋骨と首から下の骨の主は、同一人物ではなく、別人ということがわかった。頭蓋骨は男性だが、首から下の骨は女性だとわかった。警察がDNAを調べた結果である。

 二人の白骨遺体が見つかっていたことになる。頭蓋骨の男性の首から下の部分は見つかってない。また、首から下のが見つかった女性の頭蓋骨も発見されていない。

 白骨が見つかった山は、住宅地からそれほど離れていない。人もよく出入りする。だが、山道を少しそれると樹海になっていて、首を吊った遺体が見つかることもあるそうだ。今回見つかった白骨の人がどういった経過で亡くなったのかはわからない。案外、山の中には、人骨がころがっているのかもしれない。

 きょうは十日戎。朝早くに西宮神社に参拝。去年の笹を返して、新しい笹を手に入れた。境内には大きなマグロがケースの中に置かれていた。

 十日戎は、一年の商売繁盛を願う。法医解剖をしている身としては、商売繁盛というと、解剖が増えるのかもしれず、あまり大げさにお願いするわけにはいかない。とはいっても、お参りしたからには、商売繁盛をお願いしないわけにもいかない。毎年、そんなことを繰り返している。

 今年に入って、オミクロン株感染者数が増えているらしい。最近、大阪や神戸では、人出が減っているというわけではないようだ。この調子では、感染者数はひどく増えてしますように思われる。コロナ感染が始まってすでに2年。いつ終息するのだろうか。終息に向かえば、景気も良くなり、商売繁盛となるのだろうか。

 

 施設に入所していた16歳の男子が、便所の中で亡くなっているところを見つかった。原因がわからないので、解剖することになった。

 体の外に目立った傷はできていない。だが、解剖すると、異常はすぐに見つかった。腹を開けると、血液が1リットル近く溜まっていた。腸管がつながっている腸間膜に傷ができていて、出血が広がっていた。腸間膜挫傷という。死因は、腸間膜挫傷による出血性ショックとわかった。

 腸間膜挫傷は、外力によって起こる。腹の外側から内側に向かって大きな力が作用したことになる。男性は施設に入所していたのだから、どこかで交通事故にあったとは考えられない。

 腹の外側の皮膚には、目立った傷は認められなかった。だが、こうしたことはよくおこることだ。腹は外側から押されても内側に凹むので、皮膚に異常がおこりにくい場所なのだ。この男の子はなぜ亡くなったのだろうか。私ができるのは、ここらあたりまでとなる。事件なのか、事故なのか、そのあたりのことは、警察の仕事となる。

 解剖するときには、脳をとりだす。脳は頭蓋骨の中に入っている。脳を取り出すためには、頭蓋骨を開けなければならない。これがなかなか大変な作業になる。ギブスカッターのような器具を使って、くるりと頭蓋骨を切る。頭蓋骨のてっぺんの部分を取り外すと脳が取り出しやすくなる。

 脳の取り出しやすさは、頭蓋骨の切り出しやすさに比例する。人によって頭蓋骨の厚さに違いがある。厚い骨を切り出すのには、時間がかかる。

 精神科に長く通って薬を長期に服用している人の頭蓋骨は厚い。そういう印象を持っている。理由はよくはわからない。薬を長期に服用するとそういったことになるのかどうか、はっきりしたことはわからない。

 高齢者で痩せている人の頭蓋骨は薄い印象がある。慢性の栄養障害があるのだろうか。栄養状態の悪い人の頭蓋骨は、薄い。

 解剖が終わった後には、取り除いた頭蓋骨の部分を元に戻す。できるだけ原型に近いように頭皮を縫い合わす。髪の毛が短い人は皮膚を縫いやすいのだが、髪の毛が多く長い女性などの場合、縫い合わすのが難しい。最近では、技術員の人がやってくれるので、私が自分で縫い合わすことはなくなった。

 解剖にも種類があって、犯罪捜査が目的の司法解剖の場合は、原則、開頭する(頭蓋骨を切って脳を取り出す)。だが、犯罪性がなく、死因究明が目的の解剖の場合には、開頭しないこともある。

 脳は死因に直結する損傷や疾患が多く見つかるので、開頭することが望ましいが、遺族には、開頭を嫌う人もいる。開頭すれば、頭に傷をつけることになるので、嫌がるのはもっともなことではある。

 職場には、女性たちが沢山いる。年代は幅が広い。仕事の合間に、彼女たちの雑談会を聞くと、面白い。美容に関すること、子供のことなど。内容はさまざまだ。楽しそうに雑談している。実にたくましい。

 男同士では、こうはならない。男の友人たちと話をすることもあるが、それほど長く話は続かない。女性たちは休日に友人たちと旅行に行ったりするようだが、男でそんなことをしている人は多くないように思う。私も年に数回、大学の時の男の友人から連絡があって、一緒に出かけることがある。大抵はスポーツの試合を見に行くといった程度である。

 解剖していると、死に方というのも、男女で違っているように感じられる。解剖室には、自宅で亡くなった高齢者が運ばれてくることが多い。男性が多い。 女性は家族以外にいろいろな人付き合いがある。男性は、そういったことが苦手のようだ。もともと一人で生活することを好むようなところがある。そういう私も男の一人であって、休みの日は、神戸や大阪をぶらぶらするが、一人である。誰かと一緒に行こうとはあまり考えない。

 私も一人暮らしをすることになるかもしれない。その時には、ひっそりと亡くなって、解剖されることになるかもしれない。

 私の席の前で進行中の井戸端会議では、「がんばろー」「がんばろー」と女性たちが言い合っている。何を頑張ろうとしているのかは私にはわからないが、彼女たちはゲラゲラと笑っている。

 彼氏と喧嘩をしている最中に、突然意識を失って倒れたのだという。救急車ですぐに病院に運ばれたのだが、亡くなっていた。彼女は20歳の大学生。

 彼女にはこれといった持病はなかった。テニスのサークルに入っていて、倒れた当日、テニスの試合に参加していた。

 喧嘩の原因はよくわからないが、彼氏から殴られたり、蹴られたりしたわけではなかった。口論しているときに、突然、倒れたのだという。倒れたときにできたのだろうか、右の腕に打撲した痕ができていた。それ以外に異常はない。

 突然倒れて亡くなったというのだから、心臓か脳に原因があるように思われる。だが、異常は見つからない。瞼の裏側、結膜と呼ばれる場所には、点状の出血がいくつかあった。溢血点と呼ばれるものだ。急死した遺体に見られる。

 何かの原因で彼女は急死したと思われる。だが、その原因がわからない。重い不整脈で亡くなったのだろうか。心臓をいくら覗き込んでも、不整脈で亡くなったのかどうなのかはわからない。生きているとき、心臓が動いているときに、心電図検査をしなければわからない。

 近頃では、突然死の原因となる不整脈を起こす原因となる遺伝子の異常がだいぶんわかってきた。私に教室でも、亡くなった人に、こうした遺伝子の異常があるかどうかを調べている。それほど頻繁に見つかるわけではないが、時々見つかる。彼女はどうなのだろうか。

 こうした検査をするときには、遺族に検査の目的や方法などについて説明して、検査を承諾してもらわないといけないことになっている。だが、これがなかなか難しい。亡くなった直後に悲しんでいる遺族に遺伝子検査を説明するのは難しい。検査で異常が見つかれば、遺族の人にも同じ異常が遺伝している可能性があるので、遺族の人には病院で詳しい検査を受けてもらう。法医学も亡くなった人を解剖しているばかりではない。生きている人の病気の予防役立つこともある。

 早朝、道路の脇で倒れているところを見つかった。搬送された病院で死亡が確認された。亡くなったのは、21歳の女性。倒れていた現場には、自転車が転がっていた。自転車に乗っていて、何かの原因で倒れたらしい。警察は交通事故に巻き込まれたひき逃げ事件ではないかと捜査をはじめた。

 警察が調べたところ、女性は職場の友人たち4人で夜遅くまで、近くのお店でお酒を飲んでいた。日付が変わったころに飲み会は終わり、女性は自転車で自宅に向かった。女性が倒れていた現場は、家への帰り道にあった。

 解剖台の上の女性を見ると、顔や手足にはすりむいた傷があった。自転車で倒れた時にできたのだろう。死因になるような大きな傷はできていない。

 お酒を飲んだ帰りに亡くなった人が運ばれてくるのは珍しいことではない。自転車で帰る途中の人もいる。女性がどのくらいお酒を飲んだかは、解剖が終わった後で、血液のアルコール濃度を調べればわかる。

 こうした時に気をつけなければならないのは、首に致命傷ができていないかどうかということだ。お酒を飲むと筋肉の緊張が緩む。注意力が散漫になっているので、倒れたり、何かとぶつかったりしやすい。そのときに、筋肉を強張らせることが難しい。首が大きく後ろ側に曲がって、首の骨が折れてしまうことがある。

 首の骨に骨折があると、骨折したところが出血する。女性の首の骨を見たのだが、出血はない。首の骨は折れていないらしい。

 気になることが見つかった。肺が入っている胸腔と呼ばれる空間に、水が溜まっていたのだ。左右合わせて500ミリリットルほどもある。どうしてこんなに胸に水がたまっているのだろう。溺死した人では、鼻や口からの肺に飲み込んだ水が時間を経て肺から胸腔にしみ出すことがある。だが、この女性は溺死するような場所に倒れていたわけではない。肺を切ってみると、中からは水分が溢れてきた。肺の中は水浸しという状態だった。

 解剖を始めるときは、何か体の外から大きな力が作用して、亡くなったように思われたのだが、それを示す証拠はなかった。肺に水が異常にたくさん溜まっていることだけが異常だった。

 女性の死因は、肺水腫と呼ばれる。肺水腫を起こす原因はいろいろあるが、お酒を一度に多量に飲んでも起こることがある。解剖後に女性の血液のアルコール濃度を検査したところ、泥酔していたことがわかった。昔、有名な歌手の人もお酒を飲んだ後亡くなって、解剖された。死因は、肺水腫だった。

 女性は会社の友人たちと女性会をした帰りに亡くなったらしい。この女性にとって、最後の女子会となってしまった。念のために言っておきたいのだが、お酒を飲んで自転車に乗ると、交通違反になる。自動車を運転する時と同じ法律が適用されることになるので注意したい。

 私事で恐縮だが、「女性の死に方」という本を出版した。解剖していると、女性に特有の亡くなり方があるように思える。また、これまでには女性にはあまり見かけなかった亡くなり方をする人も出てきた。

 最初は、紙の本を出版したのだが、今年4月末に、コミック版が出版された。どうも若い女性がこのコミック版を読んでいるらしい。

 大学の女性学生や知り合いの女性からも、漫画本のことを聞かれることがある。最近の若い人は、活字本を読まずに、漫画本を読むようになったらしい。それでも、法医学の内容について、一般の人に知ってもらうことになればありがたい。

 法医学では解剖を行っている。解剖は警察から依頼されて行っているので、解剖で得られた情報は、警察へ報告することになっている。一般社会の人に知らせることはできない。だが、解剖していると、一般の人に知っておいてもらった方が良いような情報が得られることもある。漫画でもいいから、知ってもらえればよいと思う。

 高齢の姉妹が自宅で二人とも亡くなっているところを見つかった。自宅を訪れたケースワーカーの人が見つけた。姉妹は、90代と80代。二人とも、これといった病気にはかかっていなかった。

 お腹のあたりには緑色の変色が現れていた。死後1週間程度と思われる。姉妹ともに、腐敗の程度は同じくらいだった。ほぼ同時期に亡くなったらしい。外傷はない。遺体の発見現場となった自宅にも、特に異常はない。

 何かの病気でなくなったと思われたが、二人が同時に亡くなっているのを見つかるという、説明が難しい事情があり、警察は解剖することに決めた。

 解剖をしたのだが、はっきりとした死因はわからなかった。脳や心臓には、異常は見つからなかった。

 同じ時期に、二人が亡くなったというので、何かの中毒死の可能性もあった。調べてみたのだが、その可能性は否定された。

 二人は同じような体型をしており、痩せている。ヘソのあたりの脂肪の厚さは、ほとんどない。死後1週間ほど経っているので、血液がほとんど体の中に残っていない。残っていれば、もう少し検査ができたのだが。亡くなったのが冬で、二人とも痩せているので、寒さが二人の死に関係しているように思われる。

 実は、ときどきこうした死に方をみかけることがある。わたしはこういった死に方を“電池切れ”と呼んでいる。要するにエネルギーが尽きて亡くなったのではないかと思っている。やせているので、普段から体の中でエネルギーを作り出すことが難しくなってきているときに、寒さが最後のとどめをさしてしまったような気がする。