時効援用権者の範囲

 後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できるか、後順位抵当権者が当事者、すなわち、権利の消滅について正当な利益を有するもの(145条括弧書き)に当たるかが問題となる。
 確かに、後順位抵当権者は先順位抵当権者の被担保債権が消滅すれば、順位上昇による配当額の増加を期待し得る。
 しかし、その期待は順位上昇による反射的利益にすぎない。
 したがって、後順位抵当権者は当事者、すなわち、権利の消滅について正当な利益を有する者には当たらないと解する。


時効援用権の代位行使

事例: 債務者Bが負っている債務のうち、Aに対する債務が消滅時効にかかっている場合、Bの債権者Xは、BのAに対する時効援用権を代位行使することができるか。

時効援用権は一身専属権として代位行使は認められない(423条1項但書)のではないかが問題となるも、一身専属権には当たらない、つまり、代位行使の対象となると解すべきである。時効の援用権は、当事者の財産的利益にのみ関し、純粋な債務者の身分ないし人格そのものと結合するものではなく、債務者の援用権不行使が債権者を害する場合にまで、債務者の自由意志を尊重する必要はないからである。
 したがって、Xも423条の要件を満たせば、BのAに対する時効援用権を代位行使することができる。

時効学説

 時効は期間の経過によって当然に完成するように読める(162条・166条)。では、援用(145条)が要件とされているのはなぜか。
 この点については、時効完成にやって生じた権利の得喪は不確定であるところ、援用を停止条件として権利得喪の効果が確定的に発生すると解すべきである。このように解すれば、条文の文言とも援用の制度とも整合するからである。

時効完成後の債務の承認

 時効完成後に、援用権者が時効完成を知らずに弁済の猶予を求めるなど、債務を承認した場合、このような行為は事項による債務消滅の主張と相容れない行為であり、債権者においてももはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、時効の援用はできないと考えるのが妥当である。もっとも、そのような解する法的根拠が明らかでなく問題となる。
 この点について、時効の放棄(146条)と解する立場があるが、時効の放棄は時効の完成を知ってなすものであり、無理がある。
 そこで、債権者保護の観点から信義則(1条2項)上、時効援用権を喪失すると構成すべきである。(ただし、債権者の側に信義則違反の事情が認められる場合にはこの限りでない。)