ボクは今、対戦格闘ゲームのストリートファイター６（以下、スト６）で、A.K.I.というキャラクターを使ってマスターリーグ到達を目指している。

実はジェイミーというキャラクターでは、スト６を始めて１年間もかからずにマスターリーグ昇格を経験してはいる。

しかしその結果は、マスターリーグに値する強さが導いてくれたというものではない。もう少し正確に言えば、そういう思いはボクの心の奥底に確かに存在し続けており、どんなに自分を認めてやろうとあれこれ考えたところで、それを拭い去ることが出来なかったということだ。少なくともボクはそう思っている。

そう、ボクという人間は成長によってではなく、目先の数値をコントロールすることでしか目標を達成したことがないのである。

そういうコンプレックスを抱えている格ゲーマー。それがボクだ。

だからボクは、今度こそ本物のマスターリーグ到達を目指しているのだ。

格ゲーのコンプレックスを拭い去ることができるのは格ゲーだけなのだ。

１．夢を見るということ

仕事を終えて自宅へと向かう車のラジオで、岡本孝子さんの『夢をあきらめないで』が流れた。

あなたの夢を　あきらめないで

熱く生きる瞳が好きだわ

負けないように　悔やまぬように

あなたらしく　輝いてね

調べてみると１９８７年発売と、今から３７年も前の曲だった。

だからボクは、いつかどこかで何度かこの曲を聞いたことがあり、曲のタイトル「夢をあきらめないで」を知ってもいた。

ただ、その夜は妙に心に沁みて聴こえたよね。

ボクはいつから夢を追いかけるどころか、それを見ることすらしなくなったのだろうか。

子どもの頃には不可能であることも、大人になれば努力次第でそれを叶えられるものだと信じていたような気がする。

しかし、今はどうだ？

夢を叶える努力がどうだという前に、そもそも夢を描いているだろうか？

ここまで歩んできた人生の道中で、少しの成功とたくさんの失敗はボクに色々なことを学ばせてくれた。

世の中には思い通りにならないことの方が多いということ。

自分が大切だと思うことも、他人にとってはまるで無価値なものであるということ。

ガッカリするのはそれを期待した結果であり、したがって落胆しないためには期待し過ぎないことだということ。

そういう人生の教訓のようなものを経験から自ずと学んでいくほど、夢を描くよりも目の前の現実をいかに上手に乗り越えていくかの方に力を注ぐようになったかも知れないと思う。

それではと大人になった今、「夢」という言葉を発してみる。すると、あまりにも薄っぺらく、軽々しく聞こえる。

同時に、いい大人なんだから夢よりも現実を大切にしろよ、という考えも浮かんでくる。

夢を見ることの素晴らしさを疑う気持ちなんてこれっぽっちもないのにね。

２．使用キャラ選択

スト６でボクが心友と思わせていただいている方からこう言っていただいた。

「ジェイミーの次はA.K.Iって、トリッキーだよね」

そうなんだよね。

ボクはいつからかそういう感じ。

ジェイミーじゃなければどのキャラを使おうかと考えた時、候補はA.K.I.とダルシムだったんだよね。

ふと考えてみると、特別誰かに認められたなんていうエピソードはすぐに思つかない。

誰かに認められたい。

だから誰かに見つけて欲しい。

だから目立ちたい。

だから他人と違うことをしようとする。

時にそれが自分で自分の首を絞めるようなことになろうとも。

ジェイミーであれば…！そんな思いが込み上げる始まり。

３．夜蛾

結果としてボクはそういうちっぽけな人間なのだ。

だから何かに急かされるようにして表面的な結果を求めてきた。夢よりも現実を。

誰かに認められたい。見つけて欲しい。きっとそうもがきながら。

そうして自分自身を何とか慰められるだけの虚飾を身に纏ってきた。

何かに対して自分自身のすべてをかけて臨み、やがて己の限界を知って挫折を味わい、しかし諦めることをせず、これまでの自分を超えようと努力し続けること。

そうしてきたと胸を張って言えるものがボクには何一つとしてない。

ジェイミーでマスターリーグに到達することはそのチャンスだった。

しかし、結局いつかのタイミングで１抜けに逃げてしまった。

夜蛾が街灯の明かりに群がっている。

真っ暗な夜の世界でただ一つ煌々と輝く光にその身のすべてを預けるようにして。

やがて夜が明け、街灯が明かりを失い、この世界が光に包まれたその時、あの夜蛾は何を思うのだろう。

コツコツと音を立てて街灯のガラスケースに体を衝突させながら、夜蛾は尚も懸命に暫時の光を求める。

#140 夜蛾