翌朝、私たちは福岡のホテルを出発しました。そしてセカンドオピニオンを受けようと意気込んでいました。「別の病院で診察したら、きっと違う結果が出るはず！」と言いながら、心の中に闇を抱えたまま、笑顔で、ハイテンションの私がいました。

しかし、そんな期待を裏切るかのように、その時はやってきたのです。下半身に生温かい感触がドロドロと流れ出てくるのです。どうしよう・・・時間と共に、出血量がどんどん増えてくるのです。子宮が収縮する激しい痛みが襲ってくるのです。

「もうこの子は出てくる！」そう感じました。そして急いで長崎のかかりつけの産婦人科へ向かうことにしました。時間と共に腹痛は重くなっていきました。それは痛み止めでは、もう抑えられないほどの痛みでした。

長崎へ向かう移動の電車の中に座った途端、痛くて冷や汗でいっぱいになりました。そして、目の前が真っ白になり、気付いたらフワーッと意識が遠のいていき、夫にもたれる形で眠っていました。

◯

　　
もうすぐ長崎の佐世保駅という時、夫に起こされました。私は眠っていたため、あっという間に到着したことに驚いていました。

慌てて電車から降りようと立ち上がった瞬間のことでした。下半身に生温かい血が大量に流れ続けているのを感じました。

夫に身体を支えられながらお手洗いに入り、血の海のような状況を見た時、驚きました。

「ああ、いよいよお別れなんだ・・・」そう感じました。

流れ続ける血と一緒に出てくる赤くて黒い塊を、私は、下に落とさないように必死ですくいました。

どれ？

私の赤ちゃんはどれ？

どれ？

めまいがする中、必死で意識を奮い立たせ、一つ一つ血の塊を手に取り、それが赤ちゃんではないことを確認しました。

◯

稽留流産の診断後、それでも、お腹の子とずっと一緒にいたいと願っていました。お腹の中で留まっている赤ちゃんを感じ、少しでも私のお腹の中にいたいんだと思って、とても愛しく感じていました。でも、今はもう、「ずっと一緒にいたい」という気持ちより、この身体の痛みを、この心の痛みを、なんとか乗り越えたい！という気持ちのほうがはるかに大きくなっていました。

お手洗いから出た後、夫に状況を伝えました。すると再び出血と腹痛で目の前が真っ白になっていきました。そして夫の声が聴こえてきました。

「今から救急車をよぶから、少しここで待ってて！」

薄っすらと記憶にあるのは、いつの間にか、夫が来ていたダウンとセーターとマフラーが私のお腹に巻かれていたことでした。

でも、今、病院に行ったら、この子はお腹から出てくるだろう・・・

行きたくない・・・

もっと一緒にいたい・・・
でも、もう痛すぎる・・・

限界だ・・・

救急車のサイレンの音が遠くで聞こえてきました。その音がどんどん大きくなってきて救急車の姿が見えました。夫が走りながら手をふり、私たちの場所を知らせていました。そして救急車の速度がゆっくりになり、サイレンの音が止まった時、私は「いよいよお別れなんだ」と覚悟を決め、お腹を撫でました。

ごめんね

ごめんね

やっぱり助けてあげられなかった

ごめんね

今までありがとう

毎日楽しかったよ

お母さんは、ずっと忘れないよ

声にならない声でお腹の子に伝え、ボロボロ泣きながら、救急車に乗りました。

(つづく)

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第23話 大量出血〜救急車のサイレンが止まり、いよいよ別れの時と覚悟を決め〜

第23話　大量出血〜救急車のサイレンが止まり、いよいよ別れの時と覚悟を決め〜