夜に会いにいくひとがいる。
耳を澄ませて会いにいくひとがいる。
そのひとのことを想ってみても、ぼくにはなにもわからない。
わかったつもりになったこともあったけれど
もうそうゆうのはいいやといつからか思った。


帰り道、夜空を見上げてみたけれど流れる星は見当たらなかった。
だからいっそそれになってしまおうとそんな歌をちいさく歌った。
ばかみたいだなあと思いながら、そうして歩いた。


ぼくがどんな風に感じて、ぼくがどんなふうにことばにしたのか。
そのほとんどを憶えていない。
きっと今日のことも薄れてしまうんだろうなと思うけれど
いま、このとき、きみのたいせつな日をうれしく思っている。


きみとぼくの間にあるおよそ一定の距離。
それがとても愛おしいものだといまだ思える。
それで充分なんだろうな。






☆★



書いては消し、書いては消し、消しては書いてみたりしている。


いつの間にやら年は暮れ、いつの間にやら歳をとる。
こんなはずじゃなかった。
そんな風には思わないけれど
どっかで道まちがえたかなあ。ぐらいは思っている。


むかし思い描いていたおとなには全くなれていない。
お気に入りの万年筆や手入れの行き届いた長財布を持っていることとか
封書はペーパーナイフで開けるとか
颯爽と風をきって歩くとか
そんな大人なおとなになるものと思い込んでいた。

予定は未定とは言ったもんだ。

でもまんざらわるくもない。
身体に馴染む香水を持っているし
意を決して神保町で手にしたとても大切な古書があるし
行きつけの店がいくつかあったりする。
ともだちも数人いる。
酸いも甘いもいくつか経験した。
だからぼくはそれなりにけっこう満ちている。


駅までの帰り道の途中でたばこを一本。
表参道のイルミネーションをぼんやり見上げる。
それが消えてしまうときを見たいと思うねじれた根性。


今日ひさしぶりに恋をしてもよいと思った。
仕事が始まるまえの一瞬に。
恋がしたい!ではないところがあれである。
ひとりを愉しむ術を身に着けすぎてしまった。
ひとりででしか愉しめないような。
それでもそう思えたことはちょっとした変化。
でもそれはきっと奇跡ではない。
すかして言えば進化だ。


何度か読んだ本をまた読み終えた。
ひーひーしながら読んだ。
またいつかあたりまえのように読み返すのだと思う。
何度か読んだまた別の本をあすから読み始める。
もう鞄に入れてある。


あきらめる。
諦めるのではなくて明らめる。
そうしてやってきた。
そうして乗り越えてきた。
まだまだ、まだまだ人生が長い。
いやになるほど長いんだと思う。
実年齢よりも若く見られることがあまり好ましくない。
まったくうれしくない。
安直に前髪を伸ばそうか。


もうすこし時間が経てば声をかけることができるはず。
ただ単純にひさしぶりと地元の友人にそうするように。
なぜできなかったのかも、なぜいまじゃないのかはわからないけど。
なんとなくできない、それがいまの素直さであるから仕方なし。
憶えているだろうか……