今回読んだ小説は、


『ひと』小野寺史宜著。




物語は、砂町銀座商店街に
主人公が立ち寄るシーンから始まります。

そこにあったのが、
「おかずの田野倉」というお惣菜屋さん。

手持ちのお金が55円しかなかった主人公は、
70円まけて50円で
メンチカツを売ってくれた店主
「田野倉督次」さんに出会います。

そこで目に飛び込んできた
「アルバイト募集」の張り紙。

唯一の肉親だった
鳥取に住んでいた母を亡くし
学費を払うことが困難になり
大学をやめた主人公は、
働いて一人で生きていく必要がありました。

「働かせてください」と自然と声に出たのは
店主の温かい人柄に
久しぶりに会話した人の温もりに
店主が言ってくれた
「5円(ご縁)を残す」という言葉に
後押しされたからでした。

そのお惣菜屋さんで働く中で
主人公「柏木聖輔」は
将来は自分も父親のように
料理人になることを決意します。

そして、砂町銀座商店街を訪れた
高校時代の同級生
「井崎青葉」に再会します。

大学を諦め、
督次さんに打診された
店の後継ぎの権利も同僚に譲り、
ずっと大切にしてきたベースも
同僚の子供に譲ることができた聖輔が、
唯一、誰にも譲れなかったものとは。

この小説の重要な点は
何と言っても人間関係。

登場人物一人一人が
まるで実際に生きているかのように
リアルに描き出されています。

この小説は、
一人の秋、一人の冬、一人の春、夏
という4部構成になっています。

聖輔が「おかずの田野倉」で働き始めてから
約1年間の歩みを描いた作品ですが、
彼は何を失い、何を得たのか。

そして、聖輔を通し
読者が改めて気付かされる
何事にも代えがたい大切なものとは
一体何なのか。

是非、一度手に取って読んでみてください。

20歳の青年のたくましく生きる姿に
青春時代のまぶしさに
自然と勇気づけられる
読んだあとに爽快感が残る
そんな作品でした。😊💛