「毎日俺のために味噌汁を作ってくれ」
精一杯低くした声で言ったのは、愛らしい笑顔を見せる彼女。
私が振る舞った料理を美味しそうに頬張る姿が可愛くて、私が頬杖をついてそれを見ていたとき突然言い出したのだ。
呆気にとられる私に、ニコニコしたまま「どう?プロポーズ成功?」と戯ける。
「なにそれ」
「こんなに美味しいご飯を作ってくれるこーんなにも綺麗な麻衣ちゃんに捨てられたくないなって思ってん」
「………そんなことしなくても手放してあげないけど?」
手を伸ばして口の左端についたお米を取って食べる。その流れを目で追っていた沙友理ちゃんは恥ずかしそうに耳を赤くした。
捨てられたくないと思っているのは私なのに、不安がって先に確かめるのはいつも沙友理ちゃんの方。私たちは対等な関係だけど、沙友理ちゃんは無意識に私を優位に立たせようとする。沙友理ちゃんにとって私は本来なら手が届かない奇跡の女神みたいなものだから。
そんな風に私のことを過大評価するところがある沙友理ちゃんが、眠れない夜に麻衣ちゃんの相手に私はふさわしくないと落ち込んでいることも私は知っている。どうしよもないぐらいネガティブで全力な愛が愛おしいから。
「もっと私を口説いていいよ」
軽い口調で言えば、沙友理ちゃんは目を輝かせながら箸を置いた。眩しい光を放つ瞳は銀河を詰め込んだみたいで、きれい。
「俺は麻衣のために死ねる」
「まじで?」
「俺は麻衣に出会うために生まれてきたんだ」
「そうなんだ」
「君が一番だよ」
「じゃあ二番は?」
不意打ちの質問に、一瞬たじろぐ沙友理ちゃん。頭をフル回転させてどう転ばせるか考えているようだけど、これはすぐに答えられなきゃ。
「はい時間切れでーす」
私の言葉にガビビーン!と言いたげに沙友理ちゃんは手を使って表現する。アニメから出てきた子ような愛らしさに ふ、と息を漏らして笑った。
「一番も、二番も三番も、ぜーんぶ私じゃなきゃダメ」
からかうつもりで軽く足を蹴る。あー!そっちかぁ!と大袈裟にリアクションするかなという私の予想に反して、沙友理ちゃんは一瞬固まったあと少々困惑気味に「麻衣ちゃんには敵わんなぁ」と呟いた。
「君の瞳にかんぱいです…」
沙友理ちゃんは照れてぎこちない笑顔を浮かべながらジョークを1つ飛ばして、お茶のはいったグラスを軽く持ち上げたのだった。