痛みの授業第3回

「痛みを知れば痛みが減る」


これまで
読んでいない方は第1回の授業から読んで頂いた方が理解が深まるかと思います。
今回は、痛みを学ぶ事で痛みが減るメカニズムについて書いて行きます。
それは同時に何故痛みを学ぶ必要があるのか?という理由になります。



本題👇

【結論】
過度な脳の興奮(活性化)を落ち着かせる事で、痛みに関連した脳領域の過度な興奮も抑えられる。結果として痛みの緩和に繋がる。
また、妥当性の高い情報はより良い行動や思考に繋がります。今後、腰痛に限らず痛みに襲われた時にパニックにならずに済みます。



1つ興味深い実験があります。
慢性腰痛の被験者に脳の活動をリアルタイムでモニター出来る機械を付けて、ある映画を観せます。
映画の主人公達が中腰で作業をするシーンで、被験者の痛みに関連する脳領域が活性化される様子が見て取れました。
その後、同じ被験者に疼痛科学教育が行われました。
そして同じ映画をもう一度観てもらいました。すると以前よりも痛みに関連した領域が活性化されませんでした。


この様に慢性腰痛を有する人は腰にまつわる視覚情報だけでも脳が興奮する事があります。
今回の例にの様な「腰に負担をかける様な動作」に関係する誤った情報としてよくありがちな一例を挙げます。
「腰は脆弱である」
という情報です。
・中腰は避けましょう。
・重い物を持つのは控えましょう。
・負担がかかったから痛いんですよ。
・姿勢が悪いと負担がかかります。
ほとんどは医療者や類する業種の人間からの刹那的な親切心からの言葉や古い情報を基にした発言によるミスリードです。
これらの忠告は、あたかも腰が弱く脆い物の様な認知を生みます。

腰の筋肉、靭帯、骨、椎間板などそれぞれの強度に違いはありますが、結果的に人間の腰(に限らず背骨周囲)は数百キロの負荷に耐える構造です。
プロレスや相撲、レーシングスポーツなどで多大な負荷がかかりますが、背骨がバラバラになったりはしません。
本来、中腰や重たい荷物、姿勢の変化などの負荷でどうこうなる構造ではありません。


しかし、誤った情報を伝えられる事で
「私の腰は弱い、繊細に扱わないと」
という認知になってしまうと、中腰や重い物を持つ様な動作に対して脳が危険!と判断する様になる可能性があります。
そうすれば痛みは脳から伝えられてもおかしくありません。
※この理屈については第2回の授業を参照して下さい。👇
痛みを抱える方の日常でよくあるケースで書くとすると、以下の様なケースがあります。
・いつ痛くなるか分からない
よくある事です。
例えば友人に
友人A 「今から驚かすからね、わかった?」
友人A「わっ!!どう?ビックリした?」
あなた 「...う、うん。(驚くわけねぇだろ)」
こんな感じであればビックリする方はとても少ないと思います。
でも、下記の様なパターンであればどうでしょうか?
あなた 椅子に座って読書中
友人A 後ろから静かに近く
友人A   「わっ!!」
あなた 「きゃぁ!!」
全く同じ「わっ!!」だとしても後者の方がビックリする確率はグンと高くなります。
つまり、予測出来る物か出来ない物かで同じ刺激だとしても(同じ痛みだとしても)感じ方は全く変わります。
痛みについて知らない、または誤った情報しか知らない人は突然驚かされた人と同様に痛みに対して過度な反応を示すかも知れません。


・痛みを緩和する手段がない、または少ない
これもよくあります。
「横になって休む」以外の手段が無い方も多いです。
これも少し例え話をしましょう、想像してみて下さい。
あなたは初めて来た土地で、突然強い腹痛に襲われました。
あたりを見渡してもコンビニなどは1つもありません、公衆トイレや公園もありません。近くを通った人にトイレの場所を聞くと1番近くても徒歩15分はかかるそうです。絶対絶命のピンチ!!

一方、あなたは初めて来た土地で、突然強い腹痛に襲われました。
今にも出そうです、あたりを見渡しました。
通りの反対側、数十メートルの所に公衆トイレがありました。
痛むお腹を抱えてトイレへ向かいました。


いかがでしょうか?
同じ程度の腹痛であったとして
前者のパターンと後者のパターンでどちらの方がより辛そうでしょうか?
(僕はお腹が弱いので前者の場合、絶望感に包まれますね。)
このトイレの話の場合
腹痛というストレッサー(ストレスの元)に対して、トイレに行く。という対処が取れます。これは実現が可能で、かつ効果的な対処です。
その為、前者の解決策はあるけれど徒歩15分となると実現可能性の面で不安があります。よって前者の方が後者に比べ、より痛く感じたり不快に感じる可能性が高いです。
この様に
・対処法の有無
・対処法の実現可能性(やり易さ)
・対処法の実効果と予測効果(本来の効果と予測・期待出来る効果)
によっても痛みや不快感の程度は変わる可能性があります。
情報に根拠があるのか?
妥当性はあるのか?
という情報の質が対処の質に直結する為、正しい、または妥当な情報を知る事が大切です。



さて、例え話を挟みながら書いて来ました。
脳を過度に興奮させる要素はたくさんあり、かつその人の生活や価値観などによっても多様です。
しかし、痛みの基本性質や痛みを増幅させるメカニズムについて知れば必要以上に恐がったり不安に陥る確率は下がります。
そうすれば痛みの緩和に繋がります。