A先生しか連絡先が手に入らなかったものの、A先生は自分には敷居が高すぎることが分かり考えあぐねていた時、2人のレイコちゃんの1人である、麗子ちゃんに音楽院でばったり会ったので、一緒にお茶することができた。
その時、A先生がとても有名な先生だと、つい最近知ったことを私は伝えた。
他のピアノ科の学生は誰一人、自分の師事する先生を紹介してくれなかった中、そんなすごい先生を親切にすぐに紹介してくれて、本当にありがとう、とお礼を言った。
そして、麗子ちゃんはいったいどういう風にしてA先生の門下生になったのか聞いてみた。
誰か有力な先生のご紹介なのだろうか?
コンクールの華々しい受賞歴があるのだろうか?
すると
高校生の時、どうしても海外に留学したいと思っていた。
あるピアノの演奏会を聴きに行き、演奏会が終わった後、楽屋に行ってそのピアニストに
「私は留学したいのですが、師事する先生を紹介していただけないでしょうか。」
と頼んだ。
そうしたら、そのピアニストが自分の恩師を紹介してくれた。
それがA先生だった。
それでこの国に留学してきた。
という話だった。
「じゃ、そのピアニストはもともと知り合いだったの?
それとも誰か、そのピアニストを紹介してくれるような紹介者があって、楽屋でその人に会うことができたの?」
と聞くと、全く知らない人で、その時始めて会う人に、いわば突撃で楽屋に話しに行ったのだという。
麗子ちゃんは、ピアノコンサートなどが大都市のようにたくさんはない、地方の小さな町の出身なのだそうだ。
それで、その町で行われた数少ないピアノコンサートを聴きに行った際に、演奏したピアニストに直接頼んだ。
という話だった。
その話を聞いて、普段はおっとりしているイメージの麗子ちゃんの、うちに秘めたガッツとひたむきさと行動力に心を打たれた。