9月9日の日経MJに日本マクドナルドHD会長兼社長の原田泳幸氏とファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏の対談、読まれた方も多いと思います。
『グローバルワンを目指せ』『現場とのダイレクトコミュニケーションが要』などお二人の主張が共通していたのが印象的だったのに加え、柳井正氏の『経営とは総合芸術だ』という発言にビックリした。
柳井さんて、コンピューター付きブルドーザー系の経営者というイメージが強かっただけに、ワーグナーを想起させる「総合芸術」という言葉が出て来るなんて想定外で、ひょっとしたら今までこの経営者を誤解していたのかもとさえ思ってしまいました。
ファストファッションに多少は影響されたシーズンもあったけど、『生活の部品としての服』というブランド・アイデンティティを大きく外す事もなく、H&M社のようにコスト構造をインフレさせる事もなく、『良い服を安く』という仕組みを追求して「ユニクロ」をグローバルブランドに育てた経営手腕は確かに「総合芸術」と評価されてしかるべきでしょう。
ジル・サンダー女史の感性とはギャップを否めなかったり、店頭のカラー陳列のセンスや店舗デザインの建築的美意識が疑われたりと感性の芸術性には疑問が残りますが、実績から評価される経営手腕は「総合芸術」の域にあるのかも知れません。
美術的感性も含めて『経営とは総合芸術だ』と評価する経営者は、リミテッドブランズ社の創業者かつ再生者たるレスリーH.ウェクスナー会長、アバークロンビー&フィッチ社を高収益企業に変身させたマイケル・ジェフリーズ会長、ギャップ社をSPA企業に変身させた中興の祖たるミッキー・ドレクスラー氏(現Jクルー会長)の三人ですが、彼らに共通するのは経営手腕のみならず建築的芸術性を備えていた事です。
レスリーH.ウェクスナー氏など「ヘンリー・ベンデル」で商業美術の粋を見せつけたのみならず、創業の地たるコロンバスのオハイオ州立大学に現代美術作品を展示するウェクスナー美術センターを寄贈しています。
柳井さんをレスリーH.ウェクスナー氏に並ぶ真の経営芸術家と認めるには、「ユニクロ」に欠けている色彩美と建築的芸術性を見せつけてくれなければなりません。
それらが経営手腕の水準に達した時、ファーストリテイリング社は世界で尊敬される真のグローバルカンパニーとなれるでしょう。