ホテルに到着し、チェックインを済ませ、スタッフが部屋まで荷物を運ぶ。
そのわずか数分間が、「そのホテルのすべての印象を決定する」
大手商社の創業者を祖父に持つ洋画家の益田義信氏が、自著『さよなら巴里』(三修社)に記していた。
ならば、ホテルに着いた客が最初に出会うドアマンは、ことのほか、その印象を左右することになろう。
創業120年余のある東京のホテルでは、ドアマンが30分ごとに白手袋を交換するという。
客の荷物を汚さないため、などが理由のようだが、人は見ていないようで見ている。
指先に宿った信念を。
今日の伝統と信頼を築いたのは、この「30分への執念」の積み重ねでもあろう。
次々と訪れる客への対応に忙しい、などと、手袋交換の「マニュアル」をなし崩しにする理由はいくらでもある。
だが、時々の判断で安易に変わるものを信念とは言わない。
状況の変化を理由にしない「変わらないことへの誇り」こそが、偉大なものを作り上げる。
これは、万般に共通する方程式であろう。
「今はできなくてもしかたない」と、ひるめば、そこで成長は止まってしまう。
「ひとたび立ち上がったからには断じてやる」
この鋼鉄の信念が、道を開き、歴史をつくるのだ。