正直、中村文則の作品は私が理解できる範疇を越えている。

何作か読んだが、どれも難解であらすじすら理解できないものもあったように感じる。

この小説はタイプとしては刑事小説で、ある連続通り魔事件を刑事のコンビ(所轄やら県警やらややこしい立場の違いはいまいち覚えられない)が捜査し、解決に導く、というそこまではわかりやすいストーリーだ。

だがしかし、それだけではない。

中村文則といえば、宗教、性、暴力、狂気といったキーワードが欠かせない。この作品ももちろんそうだ。

神がいるから罪を犯さないものたち、神のせいで罪を犯すものたち。

人間のめんどくささが圧縮されている。

 

登場人物の中で気になったのは、小橋さんという女刑事だ。

こういう小説に出てくる女刑事というのは、クールビューティーな万能型だったり、過去に暗い過去を抱えていたりする。

小橋さんは全然そんなタイプじゃない。

捜査中に世界平和パフェを食べたり、白目を向いて居眠りしたり、なんだか言動がとんちんかんだったりする。

それでも時折、実力なのかまぐれなのかわからないような成果を出す。

中村文則はひたすらシリアスで一切のおふざけを許さない作風だと思っていたので、少し安心した。中村さんにもユーモアあるんだ、人間なんだ、って。

いやしかし、この小橋さんももしかすると何か大きな問題を抱えているのではないかと思いつつ読み進めた。大丈夫だった。

最終的にはコンビの相方、中島の背中を押す良い人だった。

 

主人公・中島も暗い過去を抱えている。

もしかしたら、この過去をメインテーマとした本が出たりするのかな?

いやしかし、それにしては事件概要が語られすぎだ。どうなんだろう。

 

この物語はいろんな事件や思いがいろんなところで錯綜していて、あまりにも膨大な人の悲しみや愛があって。

その膨大な思いの中から連続通り魔事件に関するところだけ掬い取ったような感じだ。

だから、想像の余地が思い切り残されている。

この分厚さの本は久しぶりに読んだのだけど、読了後の達成感よりは、なんとなくの寂しさや余韻が強かった。

少しだけクールダウンの時間を置いたら他の中村本にも手を出してみようかな。

いつか、あらすじの上澄みだけでなく、中村さんが描きたかったもっと本質の部分にまで、私の文章で表現できるようになればいいと思う。