引き続き、一般常識の無さを披露していくぽてとです。

このブログを始めてそろそろ1年になるというのに、相変わらず読みやすい文章が書けなくて、というか、はじめの頃よりも下手ッピーになっている気さえします。ああヽ(´Д`;)ノ




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大きな人に背後から抱えられての水場への移動。距離にしたら本当に目と鼻の先で。でも、その時間はとても永かったような、やっぱりとても短かったような。周りには大声や叫び声が響いていて、私の気持ちをさらに落ち着かなくさせた。

水道の前で地におろしてもらえてからも、彼に背後から覆うように抱き締められていて体は自由に動かせない。まず手首に着けていたブレスレットを外される。早口で「腫れるといけないから。」とだけ言われた。

彼の余裕の無い声。

(私のために、一生懸命になってくれるんですね。あなたの大きな体が、まるで風よけみたいで、周りの好奇の視線からも守ってくれているように感じるのは、図々しい思い上がりなのでしょうか。)
絶対に口には出来ない疑問を、心の中で問いかけた。


私の顔全体には、水で濡らしたハンカチが大きな両の掌で軽く押しあてられて視界が遮られた。そして私の両手は水をかけられているから、仕方なく前を向いたまま、「ごめんなさい。」とだけ言った。

私のその声を聞いて、「はあっ」と力が抜けたようなため息がもれたのが頭上で聞こえる。

「本当に、驚いた。無茶はやめて。」

私の耳に直接かかる声が本当に切実で。心臓がギュッて鷲づかみされるみたいで、不謹慎にもすごく嬉しかった。



どのくらいそうしていたのか。ハンカチが顔から離されて視界が解放されると、すぐ横に社さんがタオルを2枚持って立っていることを知った。

首を回して確認すると、椿の火は消火されていた。消火剤の白い粉を被っているのが可哀相だけれど、適当な消火方法なのだろうと唇を結ぶ。

「蓮はこのあとも仕事だから、キョーコちゃんは俺と病院に行くよ。」という社さんの声にハッとした。

「というわけで、気持ちはわかるけど、いいかげんキョーコちゃんを離してあげなさい。」

社さんが呆れたように言って、私の後ろの人を促すように、びしょ濡れの腕にタオルをかける。

おいくらするのか考えるのも怖い、彼が専属モデルをつとめるブランドのハンカチも、ジャケットの袖も、革靴も、しっかりと濡れているのを改めて認識すると、私の申し訳なさが爆発した。

「す、すみませんでしたっっっ!!」

そう叫んで敦賀さんの腕の中から飛び出す。正面に向き合い、土下座のためにかがもうとした私の額を敦賀さんが、肩を社さんがペシリっと止めた。

「もう、そんなこといいから。病院でちゃんと手当てしてもらうんだよ?じゃあ社さん、最上さんをよろしくお願いします。」

「おう、任せとけ。後で連絡する。」

私なんかのために、敦賀さんが社さんに丁寧に頭を下げている。申し訳なくてもう一度謝ろうとしたけれど、周りからの強い視線にこれが限界だと思った。さすがにこれ以上私が目立つのも、敦賀さんの仕事を中断するのもためらわれて、チラチラと敦賀さんを振り向きながら、社さんに背中を押されるままに人混みに紛れた。

それを見届けるかのようにこちらを見ていた敦賀さんは、社さんに軽く頷くと、サッときびすを返す。びしょ濡れのくせに相変わらずの優雅さと輝くオーラを纏って、観衆の輪の中に戻っていった。






境内を、冷たいタオルで顔と手を冷やしながら社さんと歩く。
共演者の皆様とははぐれてしまっていた。

「あ、あの、社さん。謝ってすむことじゃないですけれど、お仕事の邪魔をしてすみませんでした。あとは私一人で「ううん、それはできないよ。」

「え、と……。」

「蓮は、本当は自分自身がキョーコちゃんと一緒に行きたかったんだ。でも俺を信用して託してくれたんだから。あいつが心おきなく仕事に集中できるように俺は最後まで君に付き添うよ。」

社さんは穏やかに、でもキッパリと言い切った。それでも、でも。

「で、でも、これは私の個人的なあれでして……。」

モゴモゴと言い続ける。だって、社さんは敦賀さんのマネージャーでまだ仕事中で。私は自分のしたいことをした結果、こうなったわけで。

「…キョーコちゃん、この近くでロケだったんでしょ?そのまま帰らないで蓮のこと見に来てくれたの?」

「っえ!……は、はい……。」

わざわざ敦賀さんを見にきたのだとバレてしまって、なんだか恥ずかしくなってしまう。(あれ?そういえばなんで私がロケだなんて社さんは知っていたんだろう、と不思議に思ったのは、後日のこと)

「そっか、うん。…キョーコちゃんの動機としては、共演の人達につられただけかもだけれど、それでも嬉しいよ、ありがとう。蓮は予期せぬ接触もあって、おかげで欠乏症から少し回復したみたいだし。今日も遅くまで仕事頑張ってくれそうだよ。だからホントのところ、これも俺の仕事のうちみたいなものなんだ。」

…ん?私がここに来たことで、どうして社さんが嬉しくて、しかも私にお礼まで言うんだろう。そして、敦賀さんが欠乏症から回復?…何の欠乏?これも社さんの仕事…………?

……。まあ、考えても仕方ないか。

答を出すのを諦めて、意識を他所へ移す。

「……はあ、それにしても、あれもこれも失敗です…。共演の皆様への挨拶もできなかった……。」

私の凹んだ呟きに、律儀に振り返ってくださる社さん。

「あ、うん。実はね、俺、キョーコちゃんが境内で蓮を見てくれているのを知ってたんだ。蓮のマネージャーとして、端から全体を眺めていたからね。だから、キョーコちゃんの共演者さん達の顔もわかってたよ。というわけで、蓮が走り出しちゃったあとに俺が挨拶してきたから。体裁は臨時マネージャーとしてね。だから、そんなに心配しなくても大丈夫。収録班はもう解散していたんだろう?あんな状況だったし、皆さんは君がパニックに巻き込まれることよりも、早くあの場から去って病院に行くことをのぞんでくれていたよ。」

………くううぅ。さすがスーパーマネージャー様!周囲への根回しと、私なんかへの精神的フォローまでしてくださるなんて。

「ありがとうございますぅ〰。」

「いえいえ。一応、『何かありましたら』って俺の名刺も渡してきたから、必要なら事務所通してくれるでしょ。」

柔和な、でも計算づくな瞳。社さんてば、頼りになりすぎです。

「ま、何より、キョーコちゃんは俺にとっては可愛い妹みたいな存在なんだから。お兄さんをどーんと頼ってね?」

社さんの茶目っ気たっぷりのウインクに、思わずふふふ、と笑った。










病院の処置室で火傷の手当てをしてもらって廊下に出ると、社さんの姿が見当たらない。携帯を鳴らそうかどうか迷っていると、ロビーのガラスに社さんが写っているのが見えた。社さんは、壁の向こうでこちら側には背を向けてソファーに腰かけている。周りの景色も色々とうつりこんで見ずらいガラスをよく見ると、LMEの所属タレントのベテランマネージャーさん(つまりは社さんの先輩)が横にいた。

背後から二人に声をかけようとして、……息が止まった。

「担当タレントの恋愛事情のフォローも、俺達マネージャーの大事な仕事だよなあ。」という先輩の言葉に、社さんが大きく頷いたから。

思わず後ずさって柱の影に隠れる。立ち聞きだなんて、マナー違反なのは百も承知。でも、我慢なんてできなかった。社さんが頷いたということは、きっとそういうことで。

既に答を知っている疑問が沸き上がる。

(社さんは、担当俳優の恋愛事情のフォローをしているのですか?『キョーコちゃん』さんは、社さんの公認なのですか?)



「いい精神状態でいてくれた方が、仕事も精力的にこなしてくれるからな、ガハハ!」

先輩マネージャーさんは自らの恋愛フォローが功を奏しているのか、とても愉快そうに笑った。

「クスクス、まあたしかに。」

社さん、苦笑してる。きっと、実体験があるからこそのそれ。「俺も頑張ってます」って、声が言ってる。

「ん?あんれ〰?……あ!社〰まさか、お前、今日も、だったりして?」

「ん〰、ご想像にお任せします。ま、でも今日は、私の手柄と言うよりも棚ぼたでしたけどね。」

「なんだよな〰嬉しそうにな〰。ヤブヘビだったか、ガハハ!」



ああ、そうなんだ。

そうか。

敦賀さん。

大切な存在(ひと)は作れないと言っていたけれど。あんなに辛そうな思い詰めた表情(かお)をしていたけれど。もうその枷(かせ)からは、解放された…んですね。

たしかにここ数ヵ月は、以前にも増して仕事を精力的にこなしているなとは思っていた。その分、体力を使うのに多忙で食事を疎かにするから、体調管理もかねてって、社さんから食事作りの依頼が頻回で。だから、敦賀さんのマンションで、時には私の一人暮らしのマンションで食事を作って二人で食べた。その時の敦賀さんはなんだかすごく機嫌が良くて、とても楽しそうで。食事のお礼だよって突然可愛い贈り物をしてくれたり、ドライブに連れていってくれて綺麗な景色を見せてくれたり。だから、何かいいことでもあったのかなあってよく思っていたけれど。

そうか。「キョーコちゃん」さんとうまくいきそうだからだったんだ。

ここ最近は、敦賀さんとはお互いの都合が合わなくて会えていなかった。その間に、敦賀さんは「キョーコちゃん」さんと何らかの進展があったんだ。

そっか…そうか…………。

ついに、ついにその時がきたんだ。

敦賀さんが「キョーコちゃん」さんと幸せを紡ぐ、その時が。