すみません…(≡人≡;)なぜかもう一つお話が増えてしまいました。短いのですが、もしよろしければどうぞ…(@_@;)



蓮ver.

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最上さんとのデートは、想像していたよりも、ずっとずっと楽しかった。

カインと雪花での店のひやかしも楽しかったけれど、素の最上さんが、少し緊張した、でもふわふわとした笑顔でそばにいてくれる。役にかこつけた「恋人つなぎ」でもない。でも、ただ手をつないでいるだけでの接触では物足りなくなって、俺が時々指を擦り合わせたり強めに握ったりすると、彼女はそれに合わせて控えめに握り返してくれた。

真っ赤な顔、恥じらってソヨソヨと定まらない目線。それだけでも、本当に可愛いくて。本当に嬉しいのに。

それだけではどうしても足りなくなった。


最上さんの家にあげてほしいとわがままを言ったのは、「本気1」、「冗談9」の割合で。女性の一人暮らしの家にいきなりあがりたいと言われても困るだろう。もとより拒否される前提だった。それでも、「彼氏としていつかは」、と俺の希望は伝えておきたかった。

ワンピースを着てきてほしいと言ったのも、「本気1」、「今後の布石9」の割合で。

だってそうだろう?本気で要求できるわけがない。なぜなら、彼女は俺を好きではないから。俺が一方的に彼女を好きなだけ、求めているだけ。まあ、彼女が万が一経験者なら(そんなことが許せるわけがないけれど)、体から手に入れるのでもよかったのだけれど、彼女は全てが初めてだ。俺が体の関係を要求して、「男の人はヤレれさえすばいいんだ」みたいな、恐ろしく誤った見解を持たれても困る。

でも俺からは、ちゃんと「好きだ」と気持ちは伝えてある。その気持ちの上にある、体も欲しいという要求は至極当然のことだろう?それを彼女に伝えるくらいは許してほしい、というか、もう気持ちが膨らみ過ぎて、言わずにはいられなかった。






最上さんの手を引いて二人で寝室に向かいながら、俺は自問自答していた。このまま彼女を抱いてもいいのだろうか、と。

彼女は俺を男として好きなわけではない。多分、「好意」はもってくれている。そうでなければキスや体への接触は拒否されただろう。

そう。そもそも俺がここまで欲求を募らせたのも、彼女の思わせ振りな態度が原因の一つだ。俺からの過剰になっていくスキンシップに、彼女は拒否反応を示さなかった。むしろ、そうなっていくのが当然とばかりに受け入れてきた。

嬉しいけれど、恥ずかしいし、慣れていなくてどうしていいのかわからない。

最上さんの心情をそんなふうにとらえてしまうほど、彼女の反応はいじらしかった。そして、それは俺の行為をどんどんと助長させていった。

一度、ラグの上で後ろから抱き締めていた時に、ポニーテールによって現れていた項が美味しそうで、我慢できずに何度も吸い付いた挙げ句、舌を這わしてしまった。自分を止めることもできずに、両の掌は柔らかな胸の膨らみも、やわやわと揉みこむ。最上さんの感触は想像以上の心地好さだった。なぜ、それを途中でやめられたか。最上さんが止めてくれたんだ。

男から、そんなことを了承もなくされたら怖いだろうに、最上さんは浅い呼吸を繰り返して耐えていた。俺は一方的な自分の欲を押し付けながらも、彼女の小さく震える姿に庇護欲を刺激された。怖いからと抵抗もできずに固まっているだけなんて、彼女の身も激しく心配になった。なんとか方向転換した腕で優しく抱き締め直すと、「こういうことをされたら、『嫌です。やめてください。』って、キッパリと言わないとダメだろう?俺でなければ、もっとひどいことをされてしまうよ?」とどの口が、と言われそうな小言を言ってしまった。それに対して彼女はうつむいたまま、「嫌ならちゃんと言います。それに、敦賀さんにしか触らせたりしていません。」と小さな声で答えた。表情は見えなかったが、「誰にでもこんなことをさせると思われるのは心外だ」と少しだけ憤慨しているような口調だった。俺は間抜けにも、「あ、そぅ?」と一言返しただけだった。
そのあとは、なんだかその先のお許しをもらってしまったような、そんな危険な考えが頭に浮かんで、そのあとの自分の行動が恐ろしく、遅い時間を言い訳に彼女をマンションへ送った。





今日だって、彼女がどんな服装でも表情は変えないつもりで帰宅した。だから、玄関でこのワンピースを纏った彼女を見たときはめまいを覚えたが、それも培ってきた演技力で耐えた。ひたすらに三ヶ月前までの自分を思い描いて、その言動をなぞらえた。

「ただいまのキス」だなんてしてしまってひとたび彼女に触れてしまえば、自分が彼女をどうしてしまうかなんてわかりきっていた。なんとかシャワーという一旦離れる時間を確保して、クールダウンを試みた。

彼女には何もするな
彼女の『ワンピース』には何の意味もない
彼女が自ら俺に抱かれにくるわけがない
彼女を何とか自宅まで送り届けるんだ

絶対に彼女を襲ってはならない

何度も何度も自分にそう言い聞かしていたのに。

なんとか無傷でここから出してあげようとしていたのに。

それなのに、それなのに。
なぜ君は自ら狼の塒に飛び込むような真似を…。





寝室に入ってベッドが視界に入ると、いよいよまずいと思った。
雄の欲が、全身を支配しそうだ。


暴走するな、暴走するな。彼女のことが大切なのだろう?
実はそういう意味ではありませんでした、まさか敦賀さんにこんなことをされるだなんて!!と泣いて嫌がられるなんて、純情乙女の彼女ならあり得ることだ。

かろうじて、最後の理性でたずねてみる。

「今からのこと、俺は本当に楽しみにしてたから、とても嬉しい。でも、最上さんは?…大丈夫?」

自分でも、変な聞き方をしたと思う。「大丈夫?」って。何がとは言わない。「やめようか」とも言えない。なぜなら、情事を匂わせるベッドを目の前にして、「ここで逃がしてあげたい1」、「もう泣かせてでもいいから彼女をほしい9」の割合になってしまっていたから。つまり、ほぼやめるつもりはなくなった。彼女から俺ヘの気持ちがなくても、体だけでも手に入ればいいか、と。俺から彼女への愛情は、彼女からの足りない愛情分も補っても十分に余りある。俺達の関係を俺の愛情全てで包み込んで、これからも緩やかに過ごしていければ、彼女の恋愛を否定する気持ちも解れてきて、彼女が俺を好きになる日もくるかもしれない。いや、実はもう傾きはじめているのかもしれない。

そうでもないと、この状況の説明がつかなかった。最上さんが、過剰な俺からのスキンシップを受け入れる理由はなんだ?なんのメリットがあるというのだろう。まさか新しい役作りの一環かと、先日何気なく椹さんに確認したが、彼女へはそういった仕事の話はないようだった。


最後の最後で、そんなふうに躊躇していた俺の「残りの1割」を0にしたのは、他でもない、彼女自身の言葉だった。

「わ、わたしっあの、は、はじめてでっ。ど、うしたらいいかわからなくてっ。で、で、でもっ。つ、敦賀さんにきもちよくなってほしくて、そのっ、このひのためにおはだをみがいてまいりまひたっ。」

カチコチの、カタコトみたいな話し方。彼女の声は緊張のあまりか泣き声に近かった。彼女が必死で紡いだであろうその言葉で、ぶちりっと、俺の理性の紐が完全に千切れる音が頭の中に響いた。