パッシブソーラーは、建物そのものが自然の熱エネルギーを集め、分配、蓄熱し、放熱するサイクルを繰り返しながら、省エネルギーで快適な居住空間をつくるシステムです。まさしく機械設備などを使用しないで、間取りや工法、材料の工夫すなわち建築的手法で実現していく家づくりです。

パッシブな家における冬の空気の流れ、エアサーキュレーションについて、前項で触れましたが、このエアサーキュレーションすなわちエアサイクルが、冬のパッシブソーラーとしての根幹機能なのです。今回は、その機能について詳しく見ていきます。
 

パッシブな家の構造を、再度、簡単に記述します。
 

まず建物の屋根面、壁面、基礎面をすっぽりと外張り断熱します。その屋根と壁の断熱面の外側に、集熱のための通気層を設けます。通気層は、上下で躯体内空間に連通しています。通気層下部には、下降気流を自動的に抑えるダンパーが設けられます。通気層上部には、空気取入口が設けられ、通気層から躯体内空間への空気の流れが確保されます。


躯体内空間(床下空間、内壁空洞、間仕切り壁空洞、一・二階のふところ空間、小屋空間)は、すべて空気が流れるように連通されます。


ベタ基礎は、蓄熱コンクリートとしての役割を担っています。天井と壁下地の厚さ唖、の調湿機能のある石膏ボードも二次的に蓄熱の役割を果たしています。
 

これが、パッシブな家の、熱的機能を受け持つ基本構造です。それを前提に、調湿機能を付加する目的も兼ね、国産の骨太構造材、調湿機能の高い下地材、無垢の板、漆喰などの塗り壁等が用いられます。開口部はすべて断熱気密防露サッシです。
 

それでは、エアサーキュレーションのシステムを見ていきましょう。
パッシブソーラーの第一機能としての集熱、それは屋根と壁の通気層そして開口部で行われます。


太陽光が屋根面や壁面に当たると通気層内の空気が暖められ上昇します。その時、通気層下部のダンパーから躯体内空間の空気が通気層内に吸引され、暖められて上昇し、空気取入口から躯体内空間へと戻ります。すなわち、躯体内空間下部の空気を暖めて上部へ戻したわけです。

 

一方、開口部からの太陽光は室内を暖めます。当然、天井や内壁も暖められ、天井面を介してその上の小屋空間やふところ空間の空気が、そして内壁面を介して内壁空洞の空気が暖められる結果となります。
 

このように躯体内空間に集められた暖かい空気は、同時に、温度差により躯体内空間を循環します。日射面の通気層と暖かい部屋の内壁空洞では上昇力が生じ、北側などの比較的温度の低い部屋の内壁空洞では下降力が生じます。
 

非日射面や夜間の通気層は、ダンパーの働きで下降気流は阻止され静止空気層となって、断熱層としての機能を担います。
 

外張り断熱された空間内での空気循環ですから、温度差が徐々になくなり均一な温度空間になっていきますが、当然、完全に温度差がなくなるわけではありませんから、速度の差はありますが、二四時間、エアサーキュレーションは発生しています。
 

この空気循環の間に、床下のコンクリートや下地の石膏ボードなどに暖かい熱が蓄熱されていきます。蓄熱された熱は、日射のなくなった夜間などに放熱され、躯体内空間の温度低下を防ぎます。躯体内空間はすべての室内を取り囲んでいますから、結果として、建物内の室内空間も均一な温度に近づこうとし、同時に、夜間の温度低下も少なくなります。
 

室内で発生する生活熱も、天井や内壁を介して躯体内空間を暖める役割を果たしています。すべての電化製品、浴室、キッチン、照明器具、暖房そして私たちの身体からも熱が発生していますから、生活熱といえどもバカにはできません。
 

こうした一連のエアサーキュレーションにより、建物内のすべての空間は均一な温度に近づき、同時に、温度が上昇することにより相対湿度は低下していきます。


一方、躯体内空間も室内側も無垢の木など調湿機能のすぐれた材で構成され、エアサーキュレーションによる温度上昇とあいまって、湿気の調整をしています。この木材などの調湿機能のおかげで乾燥し過ぎも同時に防止されています。
 

建物内の床面や壁面、天井面が均一な温度に近づこうとしていますから、低温幅射暖房的な効果も発揮され、比較的低い温度、例えば就寝時は17℃程度、昼間は20℃前後で十分生活できます。結果として人工的暖房エネルギーも大幅に低減できかなりの省エネ効果になっています。


同時に、押し入れなど、従来、湿気で悩まされた空間なども湿気の害から開放されました。
 

エアサーキュレーション効果は、建物内の室内と躯体内空間すべてに亘りますから、住まわれる方の健康性ばかりではなく、内部結露や腐朽菌の繁殖なども防ぎ、木材本来の寿命を全うさせるなど建物そのものの健康性にもおおいに貢献しています。

 

 

 

 

 

 

書籍「やっと出会えた本物の家」若林礼子・田中慶明著(2008年出版)より

 

 

 

 

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