高麗で初の春節を迎え、今日は立春である。

その春立つ日に大雪が降り、ウンスは武閣氏のウォルと自室で書き物に勤しんでいるのだが、たった四文字を記すのに四苦八苦だ。

「立春大𠮷、っと。どう？」

「医仙さま、最後の ”吉” はつちではなくて、下の横棒が上より短くなくては」

「あ”〜ホントだ。漢字って難しいわね。💡ね、上の横棒を長くしようか？」

「医仙さまっ、立春を迎えて吉運を祈願するのですから、どうかお書き直しを」

はいはい、と、髪をくしゃくしゃにしたまま新しい紙をセットして、ウンスは今一度筆を持つ。そしてそれを動かしながらもお喋りだ。

「毎年思うのよね。まだ思いっきり寒いのに、暦の上では春ってどうよ？立春だってのに、ほらほら、外雪降ってるし…」

「僭越ながら申し上げます。立春とは、動植物にとっての春が今日から始まるってことなのではないかと」

ん？どこかで聞いたかも

それも、つい最近…

”この日を境に、万物が春の装いを纏い始める日”

チェ・ヨンの言葉だ。

『立春から三候が始まるゆえ』

春の装いとか、なんだかうれしくなっちゃう

そういえばさんこうって確か…

二十四節気を約5日ずつの3つに分けたっていうアレよ、アレ❤︎

「つまり、今日から少しずつ春に向かうってことね」

ウォルが笑って頷いている。

東風(こち)が吹いて春告げ鳥が鳴き、冬籠りの虫が動き始めれば、田畑を耕す時期がもう間もなくやってくる。農民達はその季節が無事に迎えられるよう、こぞって立春に祝うのだ、と。

「この大雪では祝うのが難しいからと、早朝にチョナからの命が」

それであの男（ひと）、ウダルチの面々と雪搔きに駆り出されたってわけね

「医仙さま、それ、扉に貼ってきますゆえ」

「待って、もう一枚書き足したいんだけど…」

札を扉に貼り終えたウォルは、雪が止んだとうれしそうだ。

「ホントだ。陽までさしてきてる！庭に出てみない？ね、ほんの少しだけでいいから。このとおりお願い」

折角だもの、アレを作らなくちゃね(*´艸`)

☆☆☆

ふと、優しさを秘めた風を感じ、チェ・ヨンは雪下ろしの手を止める。

東風か

二十四節気の立春における三候とは…

初候が東風解凍

次候を蟄虫始振

末候は魚上氷

ウンスに告げたのは以上だ。　

『ねえ、最初のこちかいとうってどういう食べ物？』

東風解凍とは、東風が厚い氷を解かし始めること

蟄虫始振とは、冬籠りの虫が動き始めること

魚上氷とは、割れた氷の間から魚が飛び出ることだと説明をすれば…

『ふうん、食べ物じゃなくて、氷が溶けるってことなんだ』

少々恨めしそうな顔をしてみせたのだ。

食い物を連想するとは…

「テジャ〜ン、こちら終了しました」

「こっちも終了です」

「陽がさしてきたから、思いの外早く終わっちまいましたよ」

彼方此方から于達赤達の声が届く。

「よし、各自片付けを始めてくれ」

すると、遠目が利くテマンがヒョイとチェ・ヨンの傍に寄ってきて、残った僅かな雪を下ろそうとすれば…

「よせっ!!!」

「て、テジャン？」

そこには、小さな氷花(シガ)が咲いていた。

☆☆☆

氷った雪の上にそっと氷花をのせ、手拭いで包み、チェ・ヨンはチュホンを走らせる。しかしながら道中再び東風が吹き、目的地に着いた頃には、どうしても見せたかった美しい氷の花は、原形を留めていなかった。

東風解凍、だ

だが、その女人（ひと）の自室の扉には下手くそな文字で ”立春大吉” ともう一つ、”東風解凍” と書かれた札が貼られており、その真下には…

ふたつ仲良さそうに寄り添った雪だるまが置かれている。

「あの男（ひと）が戻るまでに、溶けちゃわなきゃいいんだけど…」

ウンスの心地よく春めいた声が聞こえてきた気がして、チェ・ヨンは甘く優しい笑みを浮かべたまま…

「イムジャ、俺です」

扉に向かってそう呼びかけた。

終わり

最後のキュートな雪だるま×2の画像を載せたくて、ついつい…立春には一日遅れてしまいましたが、二十四節気では太陽の黄経が 315°に達した日 (2月4日か5日) から雨水 (太陽の黄経が 330°の2月19日か20日) の前日までの約15日間を云うのだそうでして…f^_^;などと言い訳しつつアップですm(__)m

昨日、車から降りて縮こまりながら、目的のソバ屋を探し求めて歩いてたら、見事パーキングブロックに躓いて…( ｡-_-｡)

で、今日はもっと寒いとか。ポケットに手突っ込んで歩かないようにしなくちゃ！