細田守が2009年に放った『サマーウォーズ』は、日本の原風景たる大家族の絆と、デジタル仮想世界という対極の要素を強引なまでの熱量で融合させた、マキシマリズムの極致とも言える一作である。前作『時をかける少女』で提示した瑞々しい情緒を継承しつつ、物語のスケールを地球規模へと押し広げた本作は、公開から時を経た今もなお、夏の定番としての地位を揺るぎないものにしている。
物語の骨子は、内気な数学少年が憧れの先輩の実家を訪れ、図らずも全世界を巻き込むサイバーテロに立ち向かうというものだ。脚本の奥寺佐渡子は、膨大な登場人物が入り乱れる群像劇を鮮やかに捌いてみせるが、その一方で物語の後半、特にハッキングという知的な攻防が「花札」という極めてアナログな遊戯へと収束していくプロセスには、冷徹な論理性を欠いた「エモーションによる強行突破」が見て取れる。この飛躍を、エンターテインメントとしてのダイナミズムと捉えるか、あるいは緻密な構築を放棄したご都合主義と捉えるかで、本作の評価は真っ二つに分かれるだろう。
演出と映像美に関しては、疑いようのない一級品である。美術監督の武重洋二が描く信州の夏は、入道雲の白さと鮮やかな緑が観客の郷愁を激しく揺さぶり、一方でOZのミニマルな空間設計は情報の海としての冷徹さを象徴する。この対比が、松本晃彦による壮大な劇伴と相まって、物語のテンポを爆発的に加速させていく。
キャスト陣の貢献も無視できない。主演の神木隆之介は、自己肯定感の低い少年が、極限状態の中で「解け!」という叫びとともに自己を更新していく様を、声の微細な震えと熱量で体現した。ヒロインの桜庭ななみは凛とした透明感を、谷村美月は内に秘めた闘志をそれぞれ好演している。そして、陣内栄を演じた富司純子の圧倒的な威厳は、本作に一本の太い背骨を通しており、彼女の存在こそがこの荒唐無稽な物語を一つの「家族の歴史」へと繋ぎ止めている。
総評として、本作は『時をかける少女』のような小品としての完璧な美しさはない。しかし、ロジックの破綻を恐れずに「つながり」というテーマを叫び、夏の喧騒をそのままパッケージングしたような勢いは、細田守という作家の最も野心的な瞬間を捉えている。粗さも含めて愛すべき、まさに真夏の夜の夢のような作品である。
作品 SUMMER WARS
主演
評価対象: 神木隆之介
適用評価記号と点: A (9点)
助演
評価対象: 桜庭ななみ、谷村美月、富司純子、斎藤歩
適用評価記号と点: A (平均9点)
脚本・ストーリー
評価対象: 奥寺佐渡子
適用評価記号と点: B (6点)
撮影・映像
評価対象: 増元由紀大
適用評価記号と点: A (9点)
美術・衣装
評価対象: 武重洋二
適用評価記号と点: S (10点)
音楽
評価対象: 松本晃彦
適用評価記号と点: A (9点)
編集(加点減点)
評価対象: 西山茂
適用評価点: +1点
監督(最終評価)
評価対象: 細田守
総合スコア:[77.2]