目次
1.まえがき

2.プリント基板およびパターン欠陥検査

3.パターンの検出法

 3.1 照明法

 3.2 検出器

4.欠陥の検査法

 4.1 欠陥検査アルゴリズム

 4.2 欠陥判定画像処理装置

5.形状分離技術を利用したプリント基板廃材のリサイクリングー傾斜振動法による銅成分の分離回収

 5.1実験装置および方法

  5.1.1プリント基板廃材の粉砕

  5.1.2形状分離

 5.2実験結果および考察

  5.2.1傾斜振動板による銅成分の分離回収

 5.3 プリント基板廃材の粉砕法に関する検討

  5.3.1 粉砕条件が砕製物の粒度に及ぼす影響

  5.3.2 粉砕条件が砕製物の形状に及ぼす影響

6.注文手順

7.参考資料

 

1.まえがき

 現代の社会は,コンピュータなどの電子機器に依存することがきわめて大きい。したがって電子機器は高い信頼性を有することが必要である。

 プリント基板は電子機器の基本的な構成要素であり,その信頼性を保証するために,通常,配線パターンの電気的導通試験が行われている。しかし電気的導通試験は,パターンの切れかかり,短絡しかかりなどの欠陥を検出することができない。

 十分な信頼性を得るために目視による光学的外観検査が必要とされる。目視による検査は,検査員の疲労により必ずしも高い検査信頼性を得ることが難しいために,従来よりパターン検査を自動化するための研究が行われていた。しかし,自動化に対する要望が強くなったのは最近のことである。本稿では,最近活発に発表されているプリント基板パターン検査装置について紹介する。

 これらは,パターン検出方式,欠陥検査方式とも多様で,まだ十分に技術が固まったとはいえない。今後とも新しい検査技術の開発が行われていくものと考えられる。また,本稿では,市販レベルにある検査装置技術の紹介を行い,研究については文献を参考にしていただきたい。

 

2.プリント基板およびパターン欠陥検査

 プリント基板パターンは,機械作画機あるいは手書きによって製作される。

 

図1 プリント基板パターンおよび欠陥

 

 基材はガラスエポキシ樹脂,ガラスポリイミド樹脂などの薄板が用いられ,この上に通常銅の箔膜でパターンが形成される。パターンの最小幅は0.2mm程度であるが,最近は0.1mmあるいはそれ以下のものもある。多くの場合パターンは基材の両面に形成されるので,透過照明によってパターンを検出することはできない。

 回路パターン検査の自動化については,従来より,半導体ホトマスクを対象に研究が行われてきた。一見プリント基板パターンの検査は,この技術を直接的に適用できるように思えるが,

(1)半導体ホトマスクパターンに比べて,パターン変形に対する許容値が大きい。

(2)反面,細い短絡欠陥の検出が必要である。

(3)パターンの表面が傷つきやすく,変色しやすいためにパターンを忠実に検出しにくいなどの特有の困難を含んでいる。

 これらの困難に対処するために,種々のパターン照明法,検出法,欠陥検査法が開発されている。各種検査装置の比較を表1に示す。以下この表に基づいて,パターン検出および欠陥検査技術について紹介する。

 

表1 プリント基板パターン欠陥検査装置比較表

 

3.パターンの検出法

3.1照明法

(1)垂直落射照明

 最もオーソドックスな照明法であり,図2(a)に示すように,上方から照明を行い,パターンが基材部より高い反射率をもつことを利用して,正反射光を検出する。

 

(2)斜方照明

 パターンの検出は,リニアイメージセンサが多く用いられるので,この場合,照明および検出系を図2(b)に示すように斜方に配置することができる。この配置は半透鏡を使わないので,光の損失を避けることができる。垂直落射照明と同じく正反射光を検出する。

 

(3)拡散照明

 プリント基板パターンの場合,パターン表面に細かい傷,凹凸がつきやすく,これらをパターンの欠陥と敏感に検知してしまうことがある。これを避けるために上方および周囲から照明すると有効である。具体的な光学系としては図2(c)(d)(e)に示すように種々の配置が試みられている。

 

(4)基材内拡散照明

 本照明法はパターン表面の傷などに影響されることなくパターンを正確に検出することを試みたものである7)。図2(f)に示すように検出器で検出するエリアの外側を強く照明する。すると基材内部で光が拡散するために,基材部は「明」,パターン部は「暗」として検出される。本方式は,周辺のパターンの存在により検出特性が影響をうけることが考えられる。

 

(5)蛍光検出法

 プリント基板基材は高分子材料であり,短波長の光を照射すると微弱な蛍光を発生する。蛍光は微弱であるが,暗レベルが安定していること,SN比が高いことが特長である。本方式も基材部「明」,パターン部「暗」として検出する方式なのでパターンの表面状態に影響をうけずに検出が行える(図2(g)(h))。本方式は基材の種類により,最適の照明光波長を選択すること,また,十分な感度でパターンを検出するために特殊な技術を必要とする。

 

図2 パターンの照明法および検出法

 

3.2 検出器

 CCDリニアイメージセンサを用い,プリント基板を設置したステージを一方方向に連続送りする方法が最も一般的である。検査を高速化するには,センサの高速化とともに,N個を並列に並べることが行われるが,画像処理装置もN個必要となる。

 その他,TVカメラが使われることがある。レーザー光点を走査し,パターン検出を行う場合はPINホトダイオードが使われているようである。パターン検査の速度は,1000cm2/minが一般的であるが,さらに高速化を図った装置もある。検出した欠陥の確認および修正の手間を考えると必ずしも速いほど能率的とはいえず,確認作業を含めたトータルスループットで評価する必要がある。したがって装置としては検査信頼性が重要である。

 

4.欠陥の検査法

4.1 欠陥検査アルゴリズム

(1)デザインルール検査法(特異形状部検出法)

 パターン形状に一定の規則を想定し,規則から外れたパターン形状部を欠陥と判定する。具体的にはパターン幅,パッド幅を規定し,さらにパターンは必ずパッドで終わると想定することが多い。また,パターン幅以下の微細なパターン形状を欠陥と判定する(図3(a)~(c))。

 つぎに述べる比較検査法と異なり,比較データの集録,位置合せを行う必要がないので,簡便に検査が実行できる。本方法では,手書きパターン,電源層パターンなどの規則性が低いパターンの場合,検査性能が低下する場合がある。

 

(2)比較検査法

 デザインルール検査法の場合,図3(c)~(f)に示すように,消失したパターン,正常パターンに類似した欠陥は検出できない。また,文字部などの微細部分を欠陥と判定する(虚報)。これらの問題を解決するために,しだいに比較検査法を用いるものが多くなっている。

 比較検査法は図4に示すように,2つのパターンを比較し,不一致部を欠陥と判定することを原理とするものであるが,パターンの許容内変形,位置合せ誤差を欠陥と判定しないための特別な工夫が必要である。

比較検査のための比較データの集録方法として①実物パターンからデータを取り込む方法(表1「吸上データ比較」)。

②実物パターンを2つ並べて互いに比較する方法(表1「実物比較」),および(3)CADデータから情報を得る方法(表1「CADデータ比較」)がある。現在多く使われている方法は①②である。

 

図3 デザインルール検査法の特性

 

(パターンのやせ,太り,歪を欠陥と判定しないための工夫および2つのパターンを正確に位置合せするために工夫が必要である。)

 

図4 比較検査法の原理

 

 CADデータを使用する方法は理想的であるが,プリント基板用CADは半導体用CADと比べてユーザごとに細部が異なっているために工夫が必要となる。比較検査自体も内容的にいくつかの種類がある。

 (a)デザィンルール検査法を主に用い,欠点を低減するために比較を併用する方法(この場合表1では(吸上データ比較)のように括弧をつけた)。(b)比較のみにより欠陥を検出しようとするもの。また比較の原理が異なるものとして(c)配線パターンがあるパッドからあるパッドにつながっているか否かを調べる方法がある(表1「配線つながり検査」)。

パターンの形状を最も厳密に検査し,虚報も少なくできる可能性をもつ方法としては(b)が最も優れていると考えられる。

 しかし,プリント基板検査の対象を広く考えた場合,検査の厳密性を追求することが最重要ではなく,目視検査の代替と考えることもできる。デザインルール検査法では比較検査法よりも装置は簡便で安価になるはずである。これらはユーザが判断すべき課題である。

 

4.2 欠陥判定画像処理装置

 検出したパターンは,ディジタル化されて,欠陥を認識するための画像処理が行われる。多くの場合,局部的な画像を切り出し,画像を実時間で処理する専用画像処理回路が用いられる。

 画像処理装置としてCPUを用いることができれば,欠陥判定設定の柔軟性が増し,装置の価格も低減できると考えられる。検査装置の中には,CPUを多数並列に用いてこれを試みたもの(表1No.3)もあり注目される。CPUを用いた場合は,対象パターン,画像処理内容によっては検査速度が増減する場合も考えられる。

 プリント基板パターンの欠陥検査自動化に対して,多様な研究および実用化が試みられており,この種の工業計測応用技術としては特異な状況にあると思える。これは今日の光学的検出技術(照明,検出器)および画像処理技術(アルゴリズム,実装法)が外観検査を自動化する目的のために十分な技術段階に達しつつあることを示している。

 発表された装置はすべて商業的に成功しているわけではなく,取捨選択が今後とも続くと考えられる。装置の性能も表示値との差が大きいものもあり,実際に検査に適用して実用的価値を確認する必要がある。また検査対象の違いによる性能差も大きく,装置を意味あるものとするためには,ユーザと開発者との緊密な技術的接触が必要である。装置自体に用いられる技術については公表された論文が少なく,ここに述べた内容はカタログなどからの推察が多い。将来的には,開発者は技術内容の公表を行うように望むものである。

 

5.形状分離技術を利用したプリント基板廃材のリサイクリングー傾斜振動法による銅成分の分離回収

 現在再資源化が求められている廃棄物の一つに電気,電子機器に不可欠であるプリント基板廃材がある。これは,ガラス繊維で強化されたエポキシ樹脂積層板に銅箔を配線パターン化したもので,樹脂,ガラス繊維,添加剤,および銅箔からなる複合材料であるが,銅の品位は60%程度で高いため,銅のリサイクル資源として有望である。

 しかしながら,現状ではコスト的に見合う有効な処理法が確立されておらず,年間500トン近くが廃棄,埋め立て処理されており,資源保護,環境保全の点から問題となっている。このプリント基板廃材を適当な条件で,ハンマーミルによって衝撃粉砕すると,砕製物中の銅成分と非銅成分とではその物性の違いから粒度及び形状が異なってくる現象が見られることから,形状分離技術を利用して銅成分を分離回収できれば,有効な廃材処理の一手法となると考えられる。

 また,一般にハンマーミルによる粉砕に関する研究の多くは,粉砕機構の解明あるいは砕製物粒度の微細化を目的とするものであり,形状調整に主眼を置いた研究はその手法によらず非常に少ない。特に複合材料を粉砕し,単体分離させると同時に各成分粒子に形状調整を行うことについて検討した研究は見られない。そこで本報では,形状分離技術によって基板廃材から銅成分を効果的に分離回収することをめざし,形状分離装置として傾斜振動板を使用した場合の最適操作条件および最適粉砕条件について実験的に検討した。更に,粉砕段階での各成分の粒度および形状調整効果についても検討した。

 

5.1実験装置および方法

5.1.1プリント基板廃材の粉砕

 プリント基板廃材をφ6mmのスクリーンを装着したカッターミル(ロートプレックス2840型)により粗砕し,2.38mm以上にふるい分けた後,あらかじめ所定の回転数及び目開きに調節した衝撃型粉砕機(東京アトマイザー社ライトアーム型高速ハンマーミル1018-LA型)により,1009程度の砕製物が得られるまで数分間連続して粉砕した。

 砕料の供給速度は0.5g/s程度とした。本衝撃型粉砕機は,粉砕室に高速回転するスイングハンマー(回転半径65mm)6本を有し,ハンマー周速度(最大70.2m/s)およびスクリーン目開きが可変である。予備実験の結果,スクリーン目開きがφ2mm以上では,銅箔は十分に単体分離されないことが明らかになったので,φ1もしくはφ1.5mmの目開きを使用した。

 傾斜振動板の分離性能は,供給粒子の粒径が小さくなるほど低下するので,本報では最終的に得られた砕製物を297μm以上にふるい分け,分離試験用試料とした。分離試験用試料の粒度のトップサイズは,特に限定しなかった。

 

5.1.2形状分離

 図5に,本実験で用いた形状分離装置である傾斜振動板の概略図を示す。板は縦(Y方向)300mm,横(X方向)500mmのアルミ板で所定の傾斜角θに調節可能である。加振機により正弦振動を水平に対して振動角α=30°の方向に角振動数100πs-1で板に加え,振動状態を振動強度Kvで評価した。

 

図5 傾斜した振動板の模式図

 

 ここで,αは振動角,ωは角振動数,cは片振幅,gは重力加速度である。試料は供給点に振動ブイーダーにより,板上において粒子が多粒子層を形成しないように非常に低速で供給された。粒子は転動あるいは滑動し,板下部に設置された11個の容器に回収された。なおこの傾斜振動板は,摩擦係数の違いにより粒子を11段階に分離できその精度は高いことから,形状を評価する装置としても使用した。

 傾斜振動板による形状評価では,画像解析のように具体的に形状指数の数値を得ることはできないが,板上において常に振動が加えられ粒子の姿勢が変化するので,三次元的な形状を評価でき,短時間に大量のサンプル粒子を処理できる利点がある。

 各回収容器で回収された粒子群において,明らかに単体分離された粒子かなる容易に分別可能な粒子群は,手作業により銅成分*1}と非銅成分*2)とに分離した。それ以外の粒子群は,テトラブロムエタン溶液(比重2.96)を用いた比重分離を行い(表2に主要な廃材含有物の比重を示す),沈下物を銅成分,浮上物を非銅成分と定義した。しかる後,各成分の重量を秤量し回収率およびニュートン分離効率を算出した。

 

表2 プリント配線板の比重コンポーネント

 

5.2実験結果および考察

5.2.1傾斜振動板による銅成分の分離回収

 衝撃粉砕の結果得られた砕製物は,そのほとんどが銅,ガラス繊維,樹脂へと単体分離された粒子であり,複数成分からなる粒子はごく微量であった。図6にプリント基板をスクリーン目開きφ1.5mm,ハンマー周速度43.6m/sで粉砕して得られた砕製物の写真を示す。

 銅成分は球状,ガラスおよび樹脂の非銅成分は棒状あるいはブロック状であることから成分により砕製物の形状が異なり,形状分離の可能性が示唆される。図7は,プリント基板をスクリーン目開きφ1.0mm,ハンマー周速度68.1m/sで粉砕し,得られた砕製物を振動板で分離したときの,銅成分の回収率分布γci,非銅成分の回収率分布rniおよびニュートン分離効率ηNを,供給点から回収容器までの水平方向距離Xに対してプロットした一例である。ここに,rci,rNi,ηNは以下の式で与えられる。

 

 

図6 粉砕されたプリント配線板の写真 ハンマーミルで

 

図7 回収分布とニュートン分離傾斜振動板の効率図

 

 

 ここでfはブイード粒子重量,xfはブイード粒子中の銅成分の品位*3),wiはi番目の容器で回収された粒子重量,xpiはi番目の容器で回収された粒子中の銅成分の品位である。また,i=1~jを製品,i-j+1~11を非製品と定め,それぞれにおいて銅成分,非銅成分を回収する場合をj=1~10の10通りについて考えている。この図に示すように,銅成分が主に供給点に近い位置で回収されるのに対して,非銅成分は供給点から離れた位置で回収され,成分分離が達成されている。また,ニュートン分離効率が最大となるX=0-200mmの位置で回収された粒子群を銅製品と定めれば良いことがわかる。

 図8に,プリント基板砕製物を振動板で分離したときのニュートン分離効率ηNの最大値ηmaxを振動強度Kvに対してプロットした。

 

図8 振動の強さと傾きが与える影響最大のニュートン分離効率図

 

 パラメータは振動板の傾斜角θおよび粉砕時のハンマー周速度である。図よりスクリーン目開き,ハンマー周速度といった粉砕条件が同一の砕製物試料であれば,Kv=1~2,θ=12°前後で最も分離効率が高いことがわかる。

 また,ハンマー周速度が68.1m/sの場合,30.6m/sの場合と比較して分離効率は,Kv値によらず格段に高くなっており,本分離法においては,粉砕段階での粒子の形状調整が極めて重要であると考えられる。図9は粉砕条件が分離効率に与える影響を振動板の最適操作条件(θ=10°,Kv=1.40)下において調べたものである。

 

図9 周速とスクリーンの影響最大ニュートン分離効率における開口サイズ

 

 図のようにφ1,φ1.5mmのいずれのスクリーン目開きでも,ハンマー周速度が大きいほど分離効率は高くなる。また,スクリーン目開きφ1.5mmでは,いずれのハンマー周速度においてもφ1mmの場合よりも分離効率は低くなり,目開きφ1.5mmではφ1mmと比較して,各成分粒子の形状調整が十分になされないことを示唆している。

 図10はハンマー周速度68.1m/s,スクリーン目開きφ1mmで粉砕した試料を,傾斜角θ=12°で分離した際の銅成分回収率と銅製品中の銅成分の品位の関係を示したものである。

 

図10 製品中の銅の回収率と品位の関係

 

 Kv=1.44では回収率90%で品位96%,回収率を65%とすると品位98.5%の製品を得ることができる。現在銅廃棄物は,そのほとんどが既設銅製練所にて銅原料と混合して分離回収されている12)。一般に行われる銅鉱石の乾式製錬では,数種の工程を経た後,転炉製銅により品位98.5~99%の粗銅を得る。その後精製炉によって品位を99.5%程度に高め電解精製を行っている。

 機構的に単純な本分離法により,基板廃材の発生箇所において,銅成分を濃集し,廃材を減容化することで,既設の銅製錬所への輸送コストが低減できる。また,数種の工程を経ずに直接精製炉へ供給可能な程度に高品位な製品が得られる点に本分離法の意義がある。

 図8の結果から本分離法においては,粉砕段階での各成分粒子の形状調整が非常に重要であることは明らかである。そこで砕製物粒子の粒度および形状の粉砕条件に対する依存性について以下に検討する。

 

5.3 プリント基板廃材の粉砕法に関する検討

5.3.1 粉砕条件が砕製物の粒度に及ぼす影響

 スクリーン目開きφ1mmで得られた砕製物の銅成分の粒度分布を図11に,非銅成分の粒度分布を図12に示す。

 

図11 粉砕プリント配線板中の銅粒子の粒度分布

 

図12 プリント配線板粉砕物中の非銅粒子の粒度分布

 

 パラメータはハンマー周速度である。これらにみられるように銅成分と非銅成分では粒度分布が異なる。この原因は,以下のように考えられる。プリント基板はガラス繊維強化樹脂の両面に銅箔が張られた層状構造であるため,層間にへき開が生じやすく,銅成分と非銅成分との分離はミル投入後早い段階でなされる。

 その後,混合粉砕に近い状態で粉砕が進み,延性に富む銅成分に比べ,非銅成分は脆性に富み衝撃力による破壊が進行しやすいため,粒度が細かくなったと考えられる。以上の両者の粒度の違いにより,砕製物を297μm以上にふるい分けすることで,5~10wt%程度の銅成分の品位の上昇が見込まれる。

 また,銅成分ではいずれのハンマー周速度においても平均径,標準偏差ともに顕著な差は見られないのに対し,非銅成分はハンマー周速度によってそれらの値が明確に異なっている。とくに非銅成分でハンマー周速度52.5m/sで,70.2m/sより粉砕が進行している。これについては以下のように考えられる。ミル内での粒子群はハンマーの高速回転によって発生する旋回流に乗って運動しており,旋回流速が大きくなるとハンマーと粒子間の相対速度が低下し粉砕が進まなくなることに加えて,銅成分粒子と非銅成分粒子との衝突頻度が,ハンマー周速度52.5m/s付近において70.2m/sの場合を上回っているためと思われる。しかし,この点については今後より詳細な検討が必要であると考えられる。

 

5.3.2 粉砕条件が砕製物の形状に及ぼす影響

 図13(a)は,スクリーン目開きφ1mmで粉砕して,得られた砕製物に含まれる銅成分粒子のみを傾斜振動板によって形状分離(θ=80°,Kv=0.85)した時の,供給点からの粒子回収位置に対して粒子回収率示したものである。また図13(b)は,回収位置の平均値(AV)と標準偏差(SDV)をハンマー周速度に対してプロットしたものである。

 

図13 傾斜振動板を用いた粉砕プリント配線板中の銅粒子の形状選別結果

(a) 粒子回収率と供給点とサンプリング点の間の水平距離

(b) 回復分布の平均周速度と標準偏差の影響

 

 斜振動板による分離において,粒子形状の球形化の程度は,供給点からの距離にほぼ反比例することから,回収位置の平均値と標準偏差はそれぞれサンプル粒子の球形化の程度,および形状の均質性の程度を示すと考えられる。

 平均値のとる傾向から,銅成分粒子が効率的に球形化されるハンマー周速度が50m/s付近に存在することがわかる。銅成分粒子は,ハンマーとライニングプレートの間において転動を繰り返しながら球形化していくと思われ,50m/s付近のハンマー周速度において転がりに対して適度な衝撃力が与えられて球形化が進行したと考えられる。

 他方,標準偏差はハンマー周速度の増加につれ減少し,70m/s付近で形の比較的揃った粒子が生成している。ハンマーミルによる粉砕では,ハンマー周速度が増加すると旋回気流流速が増大し,砕料粒子のミル内での滞留時間は長くなると言われており6),形状の均質化には滞留時間が寄与したものと思われる。

 非銅成分粒子が銅成分粒子と比較して,球形化されにくいことは目視によっても明らかであるが,ハンマー周速度の違いによる非銅成分粒子の形状の変化について検討した。非銅成分粒子のみを傾斜振動板で分離した結果を図14に示す。

 

図14 傾斜振動板を用いた粉砕プリント配線板中の非銅粒子の形状選別結果

(a) 粒子回収率と供給点とサンプリング点の間の水平距離

(b) 回復分布の平均周速度と標準偏差の影響

 

 振動板の操作条件はθ=17°,Kv=1.14とした。振動板の操作条件が異なるので,回収位置の平均値および標準偏差の絶対値について,銅成分粒子の場合との比較はできない。

 しかし,ハンマー周速度に対する傾向についてみると,平均値は銅成分の場合と同様に50m/s付近で最小となるのに対して,標準偏差は50m/s付近まではハンマー周速度の増加につれ徐々に減少するがそれ以降は一定値となることがわかる。ここで傾斜振動板による銅成分と非銅成分の分離効率と各成分粒子の形状との関係について考えてみる。

 図9に示したように,スクリーン目開きによらずハンマー周速度が大きいほど分離効率は上昇する。図13の結果すなわち銅成分粒子の形状から考えると,標準偏差がとる値の傾向と一致することから,分離効率に大きく影響するのは,球形化の程度よりむしろ均質化の程度であることがわかる。逆に非銅成分粒子の形状から考えると図14より,ハンマー周速度34.7~50.2m/sの範囲では,ハンマー周速度の増加につれ標準偏差が低下しており,銅成分粒子の場合と同様に粒子の形状の均質化の程度が分離効率に対して支配的であると言える。

 ハンマー周速度50.2m/s以上では,粒子形状の均質化の程度はほぼ一定であるが,ハンマー周速度の増加につれ非銅成分粒子の形状は球形から偏倚していく傾向が見られ,そのことが分離効率の上昇に寄与しているものと考えられる。ただし,非銅成分粒子は銅成分粒子に比較して,粉砕条件の違いが形状の変化に反映されにくく,粉砕段階での形状調整の観点から考えると,非銅成分粒子ではなく銅成分粒子の形状調整の方がより重要である。本分離法においてさらに効率の良い銅成分の回収をめざすには,銅成分粒子の形状を均質化しつつ,できるだけ球形に近づける必要がある。

 

6.注文手順

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7.参考資料