米中貿易戦争中の新型肺炎

中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し、日本を含むアジアの国々でも感染者が確認されたという。旧正月の中国では数億人が帰省で移動し、海外旅行などでさらなる感染の拡大が懸念されると報じられている。

中国では2002年にもコロナウイルスの新種が原因の「SARS」が発生し、パニックのような恐怖感を世界に広げた。今回も、米国メディアによる「新型肺炎パンデミックの脅威、真の懸念は中国の秘密主義」などといった報道を見ると、米中貿易戦争のさなか、中国をおとしめるのにちょうどよいタイミングと言える。しかしその米国ではインフルエンザが猛威を振るい、今シーズンのインフルエンザ感染者は全米で1900万人以上、死者は1万以上に上るというのだから、米国は中国を悪者扱いする前に国内のインフルエンザ対策を徹底すべきであろう。

米国は2008年の世界金融危機以後、大規模な量的緩和で市場にお金を供給するとともにゼロ金利政策をとり続けて株価を維持し、経済が順調であるかのように振る舞ってきた。しかし実体経済は失業やホームレスが増え、家計所得は減少し、その一方で減税や軍事費の増加で公的債務残高は23兆ドル(約2500兆円)を突破した。さらに中国との貿易戦争の長期化は米国経済に悪影響を及ぼしている。

かたや中国は過去10年間、世界経済成長の源となってきた。2014年には購買力平価に基づくGDPで米国を上回り世界一となり、経済は鈍化したとはいえ6.1%の成長率を保っている。短期間で中国ほどの変革を遂げた国は歴史上にはないが、米国が中国を称賛もリスペクトもしないのは驚くことではない。米国にとって中国は長らく安い製造工場と同義語であり、コピー製品の製造にはたけていてもイノベーションの能力はない国だったからだ。

今、中国は革新技術を持つ国であることを証明し、中国のシリコンバレーとされる深?にはファーウェイ、テンセント、アリババといった、米国のマクロソフト、グーグル、アマゾンに匹敵する企業が並ぶ。もはやコピーの国でないことは国際特許出願数に表れている。1位は米国だが中国は日本を抜いて2位、企業別では1位がファーウェイ、2位がZETと中国勢が並ぶ。

5G技術でも中国が先行するが、「5Gが人体に及ぼす健康被害の危険性」が言われ始めている。実際に5Gサービスを開始しているのは中国だけで、実験段階の国が、5Gの電磁波が人体に悪影響を与えるとして禁止しようとしている。しかしWired誌によれば、問題とされる高周波数帯技術が、現在普及しているものより危険だとか、アクセスポイントを大量に設置することに関する健康上の懸念は誇張されているという。かつて携帯電話の使用で腫瘍ができるという懸念がなされたが、米国国立がん研究所の統計によると米国の脳腫瘍の発病率は携帯電話が爆発的に普及した1992年~2016年にかけて減少していたというデータもあるという。いずれにしても中国が先行すればするほど「中国は脅威」という報道は続くのだろう。