◆ 迷走するアメリカ政策、ロシア・中国・EUの反応
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≪ 2018/04/09  VOL457 ≫


アメリカのドナルド・トランプ大統領が「対中貿易戦争」の宣戦布告をしたこと
で、世界覇権争いが新局面を迎えている。

まず、トランプが最初に「年間600億ドル(約6.4兆円)分の中国製品に対して
高率の追加関税を課す」と発表した際の中国の反応は、「アメリカからの輸入品
に最大で25%の関税を課す(対象品目の去年の輸入額は30億ドル)」という、
受けた損害を解消するためだけの非常に冷静なものだった。しかし先週5日、
米政府が「中国に対する関税対象額を1000億ドル積み増すことを検討」と発表
すると、中国も過激な口調で「最後までいかなる代価も惜しまない」と宣言。
EUやロシア、インドなどにアプローチをかけて、貿易戦争における反米同盟国
を募り始めた。



【 対中貿易戦争 】

この貿易戦争のきっかけは、3月26日に「金本位制の人民元建て原油先物取引」
が開始されたことだった。それにより70年間もアメリカの権力基盤として維持
されてきた「石油ドル体制」が強烈に脅かされ始めたからだ。

以前から言うように、アメリカが40年以上も対外貿易赤字を抱えながら平気で
いられたのは、何より石油ドル体制のお陰だった。世界各国が石油をドルで購入
し、産油国が手に入れた巨額のドルを消費やアメリカへの投資などに回すこと
でドルは循環し、アメリカに還流されてきた。しかし石油ドル体制が崩壊すれば、
もうアメリカは年間5000億ドルもの貿易赤字を維持することは出来なくなる。
それでトランプ政権は慌てて高率の関税をかけて、赤字を解消するための策を
練り始めたのだ。

それでは、次にどのような展開が予測されるのか。前号(VOL456)でも述べた
通り、究極的にはアメリカが中国からの輸入を停止し、中国は全ての米国債を
売り払う。その結果、アメリカの場合は 格安の中国製品が手に入らなくなり、
一般市民の生活はかなり苦しくなる。中国の場合は アメリカで稼いでいた分の
黒字が無くなり、ドルを国際権力の拡大(たとえば一帯一路構想など)のために
使うことが出来なくなる。中国政府はそうした状況も想定して、石油と金に裏付
けられた人民元の仕組みを構築していたのだろう。


いずれにせよ、いま起きている出来事は あくまでも世界覇権争いの一環に過ぎ
ない。今後、「貿易戦争の結果がどうなるのか」ではなく、総合的に見て「世界
覇権争いの行方がどうなるのか」が本当のポイントとなってくる。

既に、アメリカと日本以外の主要国が中国主導の「アジアインフラ投資銀行
(AIIB)」や「一帯一路構想」に参加している状況を考えると、中国の方が立場
は強い。しかもアメリカが仕掛けた貿易戦争において、現状ではEUもロシア
も「反アメリカ」のスタンスを掲げている。
先週、トランプ自身も「EUはアメリカに強く反発している」との認識を明らか
にしている。
https://www.politico.eu/article/donald-trump-slams-eu-trade/amp

さらに中国は、「アフリカ」というカードも手に入れつつある。
先週3日、ジンバブエのエマーソン・ムナンガグワ大統領が中国を訪れたのだ
が、その際に両国は経済、技術、農業、人的資源などの分野の協力協定に署名し、
戦略協力パートナーシップにアップグレードすることに合意した。
ムナンガグワ大統領は「ジンバブエでも中国と同じ社会主義の仕組みを発展さ
せたい」とまで語っている。
http://usa.chinadaily.com.cn/a/201804/04/WS5ac3bf60a3105cdcf6516148.html
米軍幹部筋によると、この表の動きと同時に、水面下ではアフリカ全土共通の
新通貨を発行して「アフリカ共和国」を誕生させようという機運が高まっている
という。同筋は「アフリカ共和国が誕生すれば、これまでアフリカにたくさん
援助をしてきた中国の強力な味方になる公算が大きい」と伝えている。となれば、
中国はユーラシア大陸の大部分とアフリカ大陸を影響圏に収めることが出来る。

それではアメリカはどうか。まず、南米と北米の支配は引き続き出来るだろう。
それから中近東では、ユーフラテス川の東岸にあるアラブ諸国やイスラエル、
それらの国々の石油利権は維持することが可能だ。また、中国周辺においては
おそらくインドやオーストラリア、日本、ベトナム、朝鮮半島あたりが、中国に
圧倒されることを恐れてアメリカ側につくことになるだろう。



【 キャスティング・ボート 】

現状として、経済力ではAIIBに参加する構成国を見るだけでも中国の方が上だ
ろう。しかし、軍事力においてはアメリカとその同盟国の方が強い。今後、中国
はロシアと軍事同盟を組まなければ、ユーラシア大陸との同盟関係を維持する
ことは難しいだろう。また中国は、ロシアやその周辺国からの資源供給が無けれ
ば「石油本位制ドル」からの独立を得ることも出来ない。

つまり、いま進行している世界覇権争いにおいてキャスティング・ボートを握っ
ているのはアメリカでも中国でもなく、ロシアということになる。そうした状況
の中、先週、中国政府の外交部長と国防部長が相次いでロシアを訪問、中露の
同盟関係強化のために要人との会談を重ねている。

また「中国の宇宙ステーション実験機(天宮1号)が制御不能に陥り、4月2日
に大気圏に再突入した」と報じられているニュースについて、ペンタゴン筋は
「米軍の工作により落下した」と伝えている。同筋によると、中国がアメリカの
軍艦に対して仕掛けた複数の「事故(工作)」への報復だったという。
当然ながら中国は、今回のロシア訪問に際して「対米宇宙戦争」の支援もロシア
政府に要請しているはずだ。


こうして中国がロシアとの友好関係を強化する一方で、アメリカ政府はロシア
を敵に回すような動きばかりしている。
先週6日にも「米大統領選介入」や「サイバー攻撃」などを理由に米財務省が
「ロシアへの新たな制裁措置」を発表、またイギリスで発生した「神経剤による
元スパイ暗殺未遂事件」をめぐって欧米諸国からロシア外交官を追放するなど
の「反ロシアキャンペーン」を大々的に繰り広げている。

そうした最近のアメリカの動きについて、先週ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相
が「アメリカが世界各地で一体何がしたいのか、明確にする必要がある」との
主旨の発言をしている。
http://tass.com/politics/997996
しかし、それについてはアメリカ自身が一番コンフューズしているように見え
る。
ワシントンD.C.から発信されている複数の記事を総合すると、この一連の動き
は明らかにトランプと商務省が率いる軍出身者以外のグループが主導権を握っ
ている。アメリカの政策が迷走しているのは、その「商務省が率いるグループ」
と「トランプ政権内の軍人」との間に亀裂が生じているからに他ならない。
いずれにせよ、トランプ政権は内部分裂の末にロシアや中国、EUをこぞって
敵に回し、世界に「負ける喧嘩」を売ってしまったと言わざるを得ない。

この状況において、日本の安倍政権はアメリカ、中国、ロシアの誰からも相手に
されていない。このままだとアメリカにおカネを吸い上げられながら、日本の
体制もアメリカと共に崩壊へと向かっていく。その前に、日本は独立を取り戻し、
独自の外交戦略を取らなければならない。ただし、安倍体制の下では日本は助か
らないだろう。