細田博之衆院議長が辞めない

武田砂鉄

「来週あたりもう一発ある」という日常会話

ずっと昔からそうだったとも言えるが、とりわけこの数年、政治家のスキャンダルをスクープする大半が『週刊文春』を中心とした週刊誌である。怪しい金の流れも、外出自粛が呼びかけられている中での夜の会食も、不倫やハラスメントの類いも、おおよそ週刊誌報道に端を発している。「あれだよね、『週刊文春』の場合、情報を小出しにして、相手の反応を見てから決定的なネタを出してくるから、来週あたりもう一発あるんじゃないかな」といった業界トークが、日常会話としても聞こえてくるようになった。「確かに。文春だし、音声もおさえているんじゃないかな」なんて会話が続いていくのだ。


「訴訟も視野に検討したい」

細田博之衆議院議長が辞めない。女性記者に対して深夜に「今から家に来ないか」などと電話したり、メールで繰り返し食事に誘ったりしていた。この記事に対して、細田議長は「訴訟も視野に検討したい」というコメントを発表している。一見、強気のコメントに見えるのだが、「〇〇も視野に検討したい」の「〇〇」に別の言葉を入れてみると、かなり弱気の時に使われる構文だとわかる。「あなたとのデートも視野に検討したいですし、もし出かけた場合には、高級焼肉も視野に検討したい」と言われた場合、ひとまずデートも焼肉もないと考えるのが妥当だろう。要するに、俺は逃げていないって感じを醸し出しながら、実際にどのように逃げるかを考え抜いた結果の文言なのである。

国会内で記者に追いかけられた細田議長は「自宅に呼んだこともないですか?」と聞かれ、そそくさと立ち去っている。自宅に呼んだことがないのであれば、立ち止まって「ありません」と答えればいいだけの話なのだが、それさえしない。数ヶ月前、CDショップを出る時に防犯ブザーがなってしまったのだが、自分はちゃんとお金を払った後だったので、その場で立ち止まって店員がやってくるのを待った。もし無言で立ち去ったら、店員はダッシュで追いかけてくるだろう。細田議長は、繰り返しブザーがなっているのに、足早に立ち去っている状態にある。


どちらが「言語道断」だろう

セクハラ問題だけではなく、衆議院小選挙区の10増10減に懸念を表明するなど、議長としての資質に欠けるとして、立憲民主党が細田議長に対する不信任決議案を出したが、自民・公明などの反対多数で否決された。今回のハラスメントは複数の女性記者の証言によって発覚したもの。狭い世界、しかも圧倒的な権力勾配の中で仕事をしている人たちが告発するのにはそれなりの覚悟が必要だったはずだが、こういう時に、その「告発した人の声」ではなく、「細田議長がどう言っているか」を軸にして、信任・不信任を判断しようとする組織全体がおかしいと思う。こんなもの、与野党の立場を超えて、「で、どうなんだよ、議長」と問いかけなければいけない。

不信任決議案についての反対討論で自民党・丹羽秀樹議員は「多くの課題に適時適切に取り組んでいかなければならない時に、週刊誌情報をもとに議会の機能を止めている場合ではなく、議会を停滞に陥れる行為は言語道断だ」と述べている。具体的な証言が複数出ているハラスメント報道について、ひたすら逃げ回っている先輩がいる。それでもやっぱり先輩に苦言を呈すことはできないので、週刊誌の情報なんかをもとにして議会を止めるなよ、と擁護してみた。でも、こういう事態、「停滞に陥れる」事態になってしまったのは、先輩が答えないからである。丹羽議員は、防犯ブザーがなった人を追いかけている店員を見て、「ちゃんとレジやれよ」と言っているわけである。どちらが「言語道断」だろう。


偉いので守る、偉くないから守らない

18歳の女子学生に飲酒させ、ホテルで共に過ごし、4万円を支払ったなどと「週刊ポスト」に報じられた吉川赳議員が自民党を離党した。辞職ではなく離党。ちなみに、彼は報道が出た直後、「製本された後、対応します。記事を見た後に対応します」と言っている。まず、ウェブサイト「NEWSポストセブン」で報じられ、その後、「週刊ポスト」にも掲載された記事だが、なかなか言い訳としては斬新である。「ひとまずネット記事だし、雑誌になってからじゃないと」という姿勢は雑誌好きの自分も共感しそうになるが、もちろん彼は、時間稼ぎをするための言い訳をなんとか編み出しただけ。自民党の重鎮たちから進退を問われた途端、離党を表明したのだった。製本、まだだったのに。

細田は偉いので辞めていない。吉川は偉くないので離党させられた。雑な分析だが、この雑な分析以外、見当たらない。偉い人はみんなで守り、偉くない人はみんなで切り捨てるのだ。細田議長と直接やりとりする記者は、数百人いるわけではない。政治の中枢で取材する新聞社も数百社あるわけではない。その証言をもとに、記者を守りながら疑惑を追求する新聞社があちこちから出てきてもおかしくないはずだが、その動きは弱い。ハラスメントは問題だけど、あれこれある問題の中では優先順位は低くなるよね、という合意というか馴れ合いが、政治家とメディアのなかで済まされているのではないか。これだからこそ、細田議長は黙ったまま、超強引に乗り切ろうと試みる。この原稿が掲載される15日、国会は会期末を迎える。

(イラスト:ハセガワシオリ