卒論活動につきましては、
「卒論テーマ選定」が一番最初の山場になるかと思います。
それどころか、「最初の山場」にして、
「最難関の山場」になったりすることもあるわけです。(経験談)
「先行研究のサーベイ」を行わずに
初回卒論指導に突撃した私は、
その後、1年間に渡り、苦しみ続けることになるのでした・・・。
ですが、いざ最終的な卒論テーマが決まりますと、
その後の調査、分析、執筆活動と言いますのは、
それはとても楽しい作業となるのです。
もともと興味関心があって設定したテーマですから、
それに関連した事象について、
いろいろなことが分かるようになるということは
とても楽しいことなのです。
従いまして、卒論活動全般を充実したものにするためにも、
この最初の「卒論テーマの選定」につきましては、
十分に準備を行う必要があるのです。
さておき、本題です。
「そもそも卒論における『オリジナリティ』とは何なのか?」
卒論とは論文ですから、
そこには何か「新しい知見」が必要となります。
先行研究の中で既に結論が出ている事柄につきましては、
単にそれらをまとめただけとなりますと、
そこから新規性、独創性を得ることはできなくなってしまいます。
そして、そこで必要となりますのが、
「オリジナリティ」となるわけです。
が、
そもそも一体「オリジナリティ」とは何なのか?
ということについて。
例えば、自分は「AはBである」ということを結論として、
卒論を書こうとしていたとします。
ところが、先行研究をいろいろと調べてみましたところ、
既に「AはBである」という結論の論文が複数存在していたとします。
しかし、だからと言って、
「『AはBである』という結論は既に出ているから、
そのことをテーマとした卒論は書けないのか?」
となりますと、必ずしもそうでは無いのです。
もし、「オリジナリティ=全くの0から新説を唱えること」
であったとしたのなら、
そもそも「AはBである」とした論文は、
「世の中に1本しか存在していないはず」なのです。
何故なら、
一番最初に「AはBである」と結論を書いた第1人者以外、
2人目以降の研究者は
「そのことを結論とした論文が書けなくなるから」なのです。
ですが、現実はどうかと言いますと、
「AはBである」と同様のことを結論とした論文は、
探せばいくらでも出てくるものだったりするわけなのです。
果たして、それは何故なのか。
「たとえ結論が同じだったとしても、
論文ごとにアプローチ方法が異なっている」
からなのです。
論文においては必ずしも、
「これまでに無い、全く新しい何かを0から発見しなければならない」
という決まりはありません。
そもそもですが、
・オリジナリティ
・高い研究価値
・容易な研究実現性
これら3要素を全て満たす「欲張りで美味しいテーマ」など、
プロの研究者たちによって、とっくに解明されているはずなのです。
ですから、
「全くの0から研究価値が高く、新しい何かを発見する」
ということは、相当に困難なことなのです。
(絶対にできないとは言いませんが私には無理です)
そもそも、学術研究とは、
先行研究の上に成り立つものなのです。
なので「全くの0から始める」のではなく、
あくまで先行研究からスタートして、
そこから「自分には何ができるのか?」
と考えることの方が大事なことだと思います。
で、具体的な「オリジナリティ」なのですが、
これは必ずしも「結論」に限ったことではないのです。
たとえ結論が同じになろうとも、
研究の対象や、方法が異なれば、
それは十分に「オリジナリティ」となるのです。
例えば、「AはBである」ということについて、
先行研究をいろいろと調べていった結果、
地域Cや地域Dについて研究された論文が見つかったとします。
ところが、いくら探しても
地域Eについて研究された論文がなかったとします。
そうなりますと、そこにチャンスがある可能性があります。
地域Eについて、
もし自分が調査・研究が可能ということであれば、
そのことが「オリジナリティ」となるからです。
【序論】
「Aにおけるこれまでの先行研究として、地域CについてはAの○○を調査対象とした研究がある(田井中,2009)。また、地域DについてはAの□□を調査対象とした研究がある(秋山,2009)。このように、これまでの先行研究によって、地域C、DにおいてはAはBであるということが既に解明されている。しかし、Aの研究において、地域Eを対象とした研究は少ない。よって、本稿では、地域EにおけるAについて、△△という方法を用いて調査、研究を行い、地域EにおいてもAはBであるということを仮説として設定し、検証を行う。」
【結論】(パターン1)
「本稿における調査、研究によって、地域Eにおいても、他の地域C、Dと同様に、AはBであるということについて検証を行うことができた。」
【結論】(パターン2)
「先行研究によって地域C、Dにおいては、AはBであるということが解明されていた。しかし、本稿における調査、研究によれば、地域EにおいてはAはBであるということは確認されなかった。」
このように、既に先行研究内で
「AはBである」という結論が出されていたとしても、
地域Eでの研究がこれまでに存在していなかったとしたら、
「地域Eを対象とした研究には新規性がある」
ということになるのです。
もし結論パターン1のように、
卒論での結論が先行研究の結論と同じ結論となったとしても、
「地域Eでも地域C、Dと同様の結果が得られた」
という「新発見」になります。
また、結論パターン2の場合でしたら、
従来の「AはBである」という定説を覆すことができるかも知れません。
さらに「なぜ地域Eにおいては、AはBとならなかったのか」、
ということについて、
その原因を調査、研究することで、
その研究成果は地域Eだけのことに留まらず、
地域C、Dにおいて「なぜAがBとなるのか」ということの
「新しい根拠の発見」となる可能性まで見えてくるのです。
また、先行研究に対して、
研究対象とする地域以外にも、時代や手法、
比較の組み合わせ等などを変えて調査、分析を行っても、
それは「オリジナリティ」となることでしょう。
例えば経営学分野の研究において、
過去に数値を用いた統計分析、
あるいは企業を単位とした事例研究によって
「AはBである」と結論付けられていたとします。
ですが、先行研究において、
Aに関してのフィールドワークによる研究がなかったとしたら、
アンケート調査やインタビューによる分析も
「オリジナリティ」のある研究となります。
【序論】
「Aにおけるこれまでの先行研究として、例えば統計手法を用いた研究がある(琴吹,2009)。また、統計手法を用いた研究以外にも、事例研究を中心とした研究が数多くある(平沢,2009)(中野,2010)。そして、これまでのいずれの先行研究によってもAはBであるということは解明されている。しかし、これまでの先行研究において、Aに直接従事する人々を対象とした研究は少ない。よって、本稿では、Aに直接従事する人々を対象に、アンケート調査、インタビュー調査を行う。そして、その調査結果によっても、これまでの先行研究と同様にAはBであるという結果が得られるということを仮説として設定し、検証を行う。」
学術研究とは、
必ずしも「0から新しい何かを生み出すこと」ではありません。
常に「先行研究」を意識しつつ、
そのアプローチ方法をベースとして、その上で、
「では、自分には何ができるのか?」
ということを考えることの方が大事なのだと思います。
そして、元となる「先行研究」をベースとして、
そこから「ちょっとだけ何か新しいこと」を行うことができれば、
それが「オリジナリティ」となるのです。
「先行研究のサーベイ」を行う際、
そこに書かれている「結論」については二の次でして、
注視すべきは「アプローチ方法」です。
ちなみにですが、
卒論指導の初回調査票に必要な「論文構想」について。
そこに記載する必要があるのはテーマに対しての
「選定動機」と「アプローチの仕方」です。(塾生ガイド2016,P132)
最後に何を主張したいのかという「結論」については必須では無く、
どのようにして調査、研究を行うかという
「方法」、「過程」の方が重視されているようです。
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