9月27日(木)

参加者:13名

テーマ:宝物・愛しいもの


【宝物】

宝物というテーマで先生が興味深い二つのエピソードをお話してくださいましたので、ここに紹介します。


「小さな手袋」


15、6年前、女性の美術教師が6年生に「家族の大切なものを入れる箱」を木工作させた時のことだ。先生は生徒の様子を見て、子どもたちが家族の大切なもの(宝物)を持たない、あるいは範囲が狭いということに気がついた。

そこで先生は「うちの子はどうだろうか?」と、二十歳の娘に「あなた宝物ってある?」と聞いてみた。すると、「あるよ」と机の引き出しの奥から小さな手袋を出してきた。それは、娘が4,5歳の時に編んでやった手作りの手袋だった。その頃保育園では手袋をこすり合わせてキュッキュッと鳴らせる遊びが流行っており、手袋をせがんだ娘に編んでやったのだ。ところが、毛糸の手袋ではこすり合わせても音は出ない。娘は「こんなの嫌だ」と拒否したが、お母さんに諭されしぶしぶその手袋を園に持っていった。その後その子が手袋をどうしたのか、お母さんである先生は全く覚えていない。しかし、15年たった今でも娘は小さな手袋を宝物として大切にとっていたのである。

その出来事を通して、先生は子どもたちにはきっと宝物があるはずだと確信したのだった。

「自分の靴」


10数年前のこと。


美術教育の全国大会で県の代表として「心のこもった絵」の実践報告をすることになった九州の先生の話である。

 先生は2年前に卒業したK君の「自分の靴」の絵をどうしても紹介したいと考えた。ところがK君は卒業後2度も引越しをしていた。それでも何とか彼の住所を捜し当て電話をかけた。

電話でお母さんに絵のことを尋ねると何のことやら全く分からない様子である。ところが、K君はすぐに机の引き出しからその靴の絵を出してきたという。


それは、こういう絵だ。

遠足での山登りを前にして先生は不安だった。K君は障害があり足が悪いからだ。K君に意思を確認すると「登りたい」との答え。そこでクラスのみんなに尋ねてみた。すると、「いいよ、手伝ってあげるよ」K君が登るのを助けるから一緒に登ろうという。

そこで、K君は何人かの友達に付き添われ山に登った。ところがやはり、集団からずっと遅れてしまった。やっとの思いで頂上に着くと、クラスの全員がK君を拍手で迎えてくれたのである。

 その後、授業で「自分の靴を描こう(自分の靴は自分にとってどんな意味があるか考えながらスケッチをする)」という課題を出した。多くの子は自分の靴を紙いっぱいに描くのだが、K君は違った。自分の靴を真ん中に描いてその周りにクラス全員の笑顔を描いたのだった。


 K君のお母さんは障害をとても苦にしており、彼の絵には全く興味がなく、いつもゴミのように捨ててしまっていた。K君はお母さんに渡すと捨てられると思ったのか、何度引越してもその絵はちゃんと大切にしまっておいたのだった。


 



 「宝物」とは、「心がこもったもの」「心が包み込まれたもの」です。