表題に嘘はない。

平井堅「ノンフィクション」


ミュージシャンというものは、特に大きなヒットを一度飛ばしたことのある人は、その後は「パワーダウンした」などと言われることが多いように思うし、俺自身もそんな目で見てしまうことがある。

平井堅さんもその一人だ。

彼は「瞳をとじて」を大ヒットさせた。
多くの人が印象深いのはそれだろう。

個人的にはそこにさらに「POP STAR」が加わる。

しかし、それ以降は(俺が音楽自体への興味を失ったこともあって)印象深い曲は出していないというイメージを持っており、かつてのパワーを持ち合わせていないように感じていた。

だが、そんな印象が間違いだったことを示されたのがこの曲だ。

「惰性で見てた テレビ消すみたいに 生きることをときどきやめたくなる」

なんという鋭さだろう。

これがあの「平井堅」から出たことも驚きだ。

ポップスを歌う歌手というのは甘く、耳にやさしい前向きなメッセージか、ネガティブなフレーズを歌うなら恋愛限定と相場が決まっている。

平井堅もそんな一人かと思っていたのに、暗く、重く、深い絶望と鋭い孤独を歌うなんて。

「みすぼらしくていいから 欲まみれでもいいから 僕はあなたに あなたに ただ会いたいだけ」

ここには衒いも見栄もない。疲れ果てた人間がいるだけだ。

いったい彼に何があったのだろう?

自分の苦悩を、ある意味では投げやりになって表明しているように見える。

だが、この歌のドラマは続く。

「消えそうな炎 両手で包むように 生きることを諦めきれずにいる」

この気持ちはよくわかる。

いくら「死にたい」と思っても、なかなかそうはいかないものだ。

まだ希望を信じているのか、動物的な本能なのかそれは何もわからないが、だがそれを壊さないようにそっと、ずっと抱えておきたいのだ。

そして

「響き消える笑い声 一人歩く曇り道」
「鞄の奥で鳴る鍵 仲間呼ぶカラスの声」
「秘密 涙 一人 雨 目覚めたら襲う不安」
「信じたい嘘 効かない薬 帰れない さよなら」


心地よい論理の飛躍を重ねて

「叫べ叫べ叫べ 

会いたいだけ」


この歌の最も強いメッセージを、精神の上空に飛翔させる。

完璧だ。

日本史に残さねばならぬ名曲である。

下のバナーを1クリックお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村