「さっき言ったばっかりなのにもう忘れたのか!」

よく聞く叱り文句である。

だが、これは科学的には見当外れだ。記憶というものに関する科学の知見と、自覚不足からくる妄言だ。

今日はその解説をしよう。

人間には「短期記憶」と「長期記憶」がある。

その言葉の意味は、専門的なことは置いておいて、文字通り「短い期間(数分から数時間)しかもたない記憶」「長い間覚えていられる記憶」という意味だと思ってくれていい。

「短期記憶」は失われるが、「長期記憶」は現在のところ、失われることはないと考えられている。

人は情報を、まず短期記憶として保持し、それが長期記憶となったときに消えることのない確かなものとして覚えていられる。

「さっき言ったばっかり」というのは当然「短期記憶」に分類される。

ここで重要なのが、「短期記憶」は名前の通り短時間しかもたないだけでなく、その容量も極めて限られている。

その量は

9(±3)個。

標準が9個で、多い人で12個、少ない人だと6個ということだ。

標準的な人と比べれば、どんなに賢い人でも3個しか多く覚えられないし、少ない人でも6個少ないだけなので、それほど個人差はない。

数字なら九ケタ程度、単語なら9語ほど覚えるのが限界ということだ。

このように、数分から数時間しか持たず、容量も極めて限られているのが短期記憶だ。

「やる気」や「根性」で増えることもない。

ということは

「さっき言ったばっかり」が覚えられないのは当たり前だ。

「さっき言ったばっかりなのにもう忘れた」ではなく「さっき言ったばっかりだからもう忘れた」というのが正しい。

では、なぜ人は教える立場に回るとそんなセリフを言ってしまうのか?

おそらく、「どうやって自分は覚えたか」がわかってないのだと思う。

「さっき言ったばっかりなのにもう忘れたのか!」

そう言われて泣く泣く覚える。

何度も何度も反復することで短期記憶を長期記憶に変える。

そんな作業をして覚えたにもかかわらず、それから時がたつにつれてその記憶が薄れ、「自分は言われてからすぐ覚えた」という認識にすり替わったのだと思う。

人間、知識そのものは覚えられていても「それをどこでどうやって覚えたか」まではなかなか覚えていられないものだ。

そんな人間の記憶の不備と自尊心が認知をゆがませる。

一度かつての自分を思い出してみてほしいものだ。

それとも

昔自分がそうだったのにもう忘れたの?

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