町はかわらずしずかでした。
 トーマは気になって、もう一度町を見下ろしました。
 町に動くものは何もありません。
「ぼくひとりぼっちなのかな…?」
 急にさみしくなってきました。
 赤かったほほも、今は白くなりました。
「帰ろうかな…」

 ばん!

 そう思った時、ドアの開く音がしました。
トーマはおどろきました。ふりかえりました。
人が立っていました。
小さな背。肩までのびたオレンジ色のかみ。くり色のコート。
女の子でした。
「あなた…、どうして…」
 女の子はトーマのもとに近づいてきました。
「え…、え…?」
 トーマがおどろいている間に、女の子のかおはトーマのはなの先にまで来ていました。
 きれいな茶色の目をしていました。
「ねえ、どうしておきてるの?どうしてここにいるの?」
「え、どうしてって、君は?」
「わたしは、いつもよ」
「いつも?」
「そう。冬には、いつもよ」
 トーマはおどろきました。冬眠せずおきている子がいるなんて。
「ほら。あなたの番よ」
「ああ。うん、その、わからないんだ」
「わからないの?」
「うん。なんかとつぜんおきちゃって、それで…」
「ふーん…」
 女の子は、トーマをあたまから足まで見つめました。
「まあ、いいわ。じゃあいっしょに来てよ」
「え?」
「ひとりでたいくつしてたの。ね。いいでしょ?」
 へんじも聞かずに、女の子はトーマのうでを引っ張って走り出しました。

 女の子はとてもかっぱつな子でした。
 みちに出て、走って、スキップして、立ち止まって、くるくる踊って。
「待ってよ」
「あはは」
「楽しい?」
「楽しい!」
「よく笑うね」
「うん!」

 トーマは、追いかけました。
 少しずつ少しずつ。
少しずつ追いついて、追いつきました。
 その時、女の子が転んでしまいました。
トーマも転んでしまいました。
 2人は重なり合いました。
「わ!ごめん!大丈夫?」
「平気よ」
 そういうと、女の子はトーマをだきしめました。
「ふふ。あったかい」
「そう?」
 トーマはいいにおいだなと思いましたが、なんだか恥ずかしくて言えませんでした。
「はい。じゃ、おりて」
「う、うん」
 トーマが立ち上がると、女の子も立ち上がって、手をさしだしました。
「ついてきて」
 二人は手をつないであるきはじめました。

(つづく)