「あれ?」
 トーマは目を覚ましました。
「おきた?」
 ベッドの明かりをつけて、ひょいっとおりると、まどのそばに近よりました。
「やっぱり」
 まどの外はまっくらでした。

 しん しん しん。

雪が小さくふっていました。

「まだ…冬…だ。どうして?冬眠、まだ終わってないのに」
 トーマは首をかしげました。
 トーマの世界では、冬になると人間も動物もみな自分のおうちで冬眠をして、春になったらおきるのです。
 もちろん、お父さん、お母さんはまだねています。
「どうしよう…」
 トーマの目はばっちりさえていて、またねむろうにもねむれそうにありません。
日曜の朝だってないぐらい、いい目覚めだったのです。
 トーマは春までひとりおきていなくちゃいけない気がしてきました。
「今は何月だろう?」
 冬はみんなねていますから、カレンダーはもう4月にしてあります。

 ただ、トーマはふっている雪を見ているうちに、外に出てみたくなりました。
 トーマが、毎年ねむっていて、けっして見ることができなかった雪。
それは空からふる雪です。
その中に飛び出したくなったのです。
「ようし」
 決めました。
さあ、外へ行くじゅんびです。
「おきがえ…いいや、コートだけで」
トーマは春から小学生。
春のための、きれいな若葉の色をしたコートです。
トーマはぱっと洋服かけのコートをとって、はおって、外へ出て行きました。
とてもしずかでした。
雪が音を立てずにひらひらまいおりています。
「すごいすごい」
 町にはだれもいません。
 黒いのらねこも、よくほえる犬も見ません。
トーマは、いつもは車でいっぱいの大きなどうろのまんなかを歩きました。
「すごいすごーい!」
 もう一度、今度は大声でさけびました。

 すごいすごーいぃ…

 トーマの声が町にひびいてやまびこみたいに帰ってきました。
どんどん楽しくなって、はやあしであるきはじめました。ざくざくと、雪をふむ音があちこちにひびいていきました。
「ははっ。ぼくがいっぱいいる」
 トーマは、また、やまびこをしたくなりました。
「おーい、みんな―!」

 おーいみんなぁー………

「ぼくだよー!」

 ぼくだよぉー………

「あはっ!ぼくがぼくに、ぼくだよー、だって!」
トーマはほおを赤くして、走り出しました。

(つづく)