「プル・プル・プル」 ミサトからの電話だ。

昼前、俺は急いで会社から出てトイレに入った。



「忙しい?」

「いや、大丈夫」



GWから3週間が経った。
これがミサトからの初めての電話である。 なんかドキドキした。



「どうや、調子は?」
「うーん、今はいいみたい。」



少し間を置いてから、

「タッちゃんが帰ってからずっと寝たきりで、だるくてしんどくて、
(起きる)(顔を洗う)(トイレにいく)、その全部の動作がゆーっくりって
なるんよ。昼間はほとんど寝てて夜になってちょっと楽になるかな」



なるほど、声を聞く限り病気があまりわからない。
そして驚いたことに調子があがってくると、ミサトの話は止まらなくなる
のである。

体の調子のことをひと通り話すと次は娘の話になる。



「あのコは昔からガサツなコでね。じっとしていることがなかった。
小さい頃食べ物屋さんに行って醤油ビンをぶちまけたりして店員さんに
何回謝ったことか、
でも心がやさしいコでね、誰からも慕われるのが親としては救いやわ」



その後は自分の昔の話になる。
この頃になるとトイレから出てビルの外で話をするようになる。



「あの頃はトップクラスで売ってたから誰からもなんも言われんかった。
やけん、先輩からも後輩からも難しいお客さんが来るとよく押し付けられてた。
クレーム係よ フフフ♪」



まくし立ててしゃべるミサトに俺は「ふーん」「それで」「へー」と
相槌を打つのが精一杯、言葉の“強さ”には圧倒されるのだ。

でもミサトはイキイキと話していた。まるで今こんなに
喋れる自分がとても嬉しいみたいに。



(コイツは何にでも一生懸命なんだなあ 俺、何やってきたんだろう?)

間を置かずに楽しそうにしゃべるミサトに俺も嬉しくなってきて
また、自己嫌悪にもなった。



「疲れたけん、ちょっと寝るわ タッちゃんお仕事頑張ってね」



ひと通りのことを話すと電話を終えた。

(なんか嵐の様なヤツだなあ)そう思いながら時計を見ると2時間半経っていた。



「ゲッ!!!」



会社にはなんとかごまかせた。 自由奔放な会社で良かったと、
そう思った。