短編小説【一ページの物語】

短編小説【一ページの物語】

全部1Pの短編小説と短歌。

もう少し長い短編はこちらへ、 短歌もやってます。

拙い文章ではありますが、どうぞよろしくお願い致します。
Amebaでブログを始めよう!
長らく不在にしていました
WEBで小説の公開はあまりしていませんでしたが、ひっそりとは書き続けていました

今まで長編小説と短編小説を分けて公開していたので、
いつの日かちゃんとまとめようと思っていたのですが、
ズルズルと今まで先延ばしにしてしまいました

今年の抱負を、小説をまとめることに決めたので、
近いうちにまとめようと思います

おそらくアメブロでの更新はほとんどなくなるとは思いますが、
まとめたらこちらでもお知らせするつもりなので、
その時はまた読んできただけたら嬉しいです

それでは!!
大好きな人が死んだ。

好きといっても、恋愛の好きではない。
いや、もしかしたらそうだったのかもしれないけれど、
今さら確かめることもできないし、したくもない。

訃報を聞いて、悲しむどころか唖然とする暇もなく私は仕事へ出かけた。
休憩の時間にやっと思い出して、
終わったら通夜に行かなければ、香典はいくら包もうか、喪服はどこへしまっただろうかという思いがぼんやりと頭を過る。

冷たいと非難されても仕方のない自分の思考に嫌気が差す。
結局、通夜でも泣くことはなかった。

家に帰って喪服のままベッドに横たわり、
引き出しから取り出したデジカメの写真を眺める。
写真の中の彼は当然のように生き生きとしていて、やはり彼が死んだのだという実感は湧かなかった。

本当に彼は死んだのだろうか。
もしかすると、彼の家を訪ねればひょっこり顔を出すのではないか。
そうして彼の痩けた頬をいつものようにバカにして、
笑いながら口の中へ無理やり糖分をねじ込む自分が容易に想像できる。

でも、彼は死んだのだという。
彼を肥らせることは永遠に叶わない。

昔の自分なら、彼の死を受け止めきれずにいただろう。
いつの間にか大人になってしまっていた私の心に、
彼に二度と会えないのだという事実がするすると染み込んでいった。

受け入れた残酷な事実は、ようやく私の眼から溢れだす。
耐え切れずに目を閉じれば、
滅多に笑わなかった彼が滅多に泣かない私を笑っていた。


(君はもうこの世にいないそれなのに記憶の中の君は笑った)
クリスマスなんて嫌いだ。

恋人がいない人がたまに冗談粧してそう口を尖らすことがある。
そうではなくて、私は本当にクリスマスが嫌いだ。

だって君が死んだ日だから。

「どうしてよりにもよってこの日に死んじゃうのかなあ」

一年前の今日を思い出して、私は白いため息を吐く。
あの日から実感の湧かぬまま、今日まで過ごしてしまった。
今でも君がどこかにいる気がしてならないのに。

「もう一生祝えないじゃない」

一年も経ったのに、私は一歩も進めないまま。
笑えば、君が笑った時に歪む唇を思い出して涙が溢れる。
だから私は、笑えなくなってしまった。

「返してよ」

どんよりとした冬の空に、私の言葉は溶けてゆく。

私の笑顔を。
いや、君の笑顔を。

「返して、神様」

一昨年まで一緒にクリスマスを笑って過ごしていた君の顔を思い浮かべる。
死人のように生きている私と違って、記憶の中の君は生き生きと輝いていた。


(もう二度とあなたの声が聞けぬから伝言メモが消せないままで)
「でね、どんなに迫害されても挫けずに、お互いを助け合っているのよ。
確かにそのせいで傷つく人はたくさんいるのだけど、私はそれが間違ったことだとは思わないわ」

彼女は昔から虫が好きだった。
イタズラが大好きだった幼少時代は、
カマキリを手に持って泣きじゃくる僕を笑顔で追いかけまわしていた。
また違う日には必死に制止する僕を黙らせて、
道行く女子高生の背中にバッタを投げつけ、阿鼻叫喚する様子を陰から見て笑っていた。
今思い返してみても悪趣味としか思えない。

半ズボンで駆け回っていたあの頃とは違い、君は随分と女らしくなった。
化粧だって一人前だし、ワンピースを好んで着ている。
そして、芋虫を手のひらに乗せて頬を紅く染める表情も幾分女らしくはなったのだけど、
大人になれば虫好きではなくなるだろうという幼い僕の目論見は外れてしまった。

ああ、どうして君はそんなにも虫のことが好きなのだろう。
ああ、どうして僕はこんなにも君のことが好きなのだろう。

たぶん一生解決しないであろう問題に僕は頭を抱えて、彼女が大学の害虫の講義で享受したという、
マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウの共生についての話に大人しく耳を傾け続けていた。


(罵られ蔑まれてもくじけないあなたと手を取り生きてゆきたい)
恋なんてしばらく、下手したら一生しなくてもいいと思っていた。
今だってそう思っているのだけど。
ぼんやりと思いふけりながら隅っこで膝を抱えてビールを飲んでいると、頭にポンと手が置かれた。

「ひさしぶり」

それだけ言って、彼は席へ戻る。
たったそれだけなのに、たくさんの人で溢れている飲み会で私を目に留めてくれたことに、自分でも驚くくらい胸が踊った。
ばかばかしい。面倒くさい。
そうは思うけれど、止まらないものは仕方がない。
私は彼のプロフィールの詳細も、
ましてやその情報を手に入れるためのメールアドレスも、
それを聞くための勇気も持ち合わせていない。
それでも止まらないのだ。この想いは。
さっき手を置かれた頭に、そっと触れてみる。
嬉しい。楽しい。苦しい。
私の視界の中で彼がひときわ目立っているのは、
彼の背が高いことだけが理由ではなさそうだった。

(ドキドキと高鳴る鼓動はこんなにも苦しいものだと忘れていたの)